地球温暖化
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議
「CASA」専務理事・弁護士
早川 光俊さんに聞く
関連/なくせ公害 守ろう地球環境
2013年以降の地球温暖化対策の国際的枠組み作りに向けて、6月1日から12日にかけて、ドイツのボンで開かれている国連の会議に合わせて、麻生首相は6月中旬にも日本の中期削減目標を決定し、発表するとしています。地球温暖化問題に詳しい早川光俊さん(地球環境と大気汚染を考える全国市民会議「CASA」専務理事、弁護士)に聞きました。
悪影響はまず食糧問題に農業の危機は消費者の危機
正確な知識の共有で温暖化を防ごう
私は、温暖化の悪影響で、最初に深刻化するのが食糧問題だと思います。影響はすでに現れていて、アフリカなどの低開発国では飢餓が深刻化しているし、オーストラリアは6年越しの干ばつで農民が自殺しています。一つ一つの現象を温暖化のせいと特定はできませんが、温暖化が進むとこういう状況がひんぱんに起こるとIPCC(気候変動に関する政府間パネル)も予想しています。温暖化の悪影響は先進国、途上国にかかわらず、ぜい弱なところから現れるということも重要な点です。
日本は食料自給率が40%と低水準の一方で、歴代の自民党政権によって壊されてきた農業の困難な状況を見ると、温暖化に対して、とくに食糧・農業はぜい弱だと思います。
都市の市民や消費者は、農業の大事さ、食料を確保する大事さをもっと理解するべきだし、まず農林水産業が現在抱えている困難な状況を知って、そこに温暖化の影響が相加・相乗されることを考える必要があります。生産者と消費者の交流で、正確な知識を持って、市民・消費者の目線から考えることが、長期的に温暖化を防ぐ国民世論を作るし、そういった情報の提供が環境NGOの役目だと思っています。
今の農業の困難を訴えてほしい
農家の皆さんには、今農業がどうたいへんなのか、どう収入が激減しているのか、ぜひ話してほしい。都市の市民、消費者は農業をする人がいなくなったら困るんです。農業をつぶしていいなんて人は誰もいない。率直にそう思うし、そこに訴えることが大切です。農家の皆さんにはご自分の仕事に自信をもって、農業の危機は消費者の危機なんだ、自分たちだけの危機ではないんだと訴えてほしいのです。
公害被害者が声をあげたことで、国民全体の健康が守られたように、いま農家が現状の大変さを訴えないことは、ある意味で市民に対する“裏切り”とさえ言えるのではないでしょうか。農業などの1次産業から温暖化の影響を考える、そうしたら、温暖化に対する危機感も、温暖化に対する国民のたたかいも腰が座ったものになります。
世界に遅れる日本の経済界と政府
日本の温暖化防止への気運は、ここ2〜3年かなり進んできました。しかし世界はもっと進んでいて、気温上昇を産業革命以前に比べて2度未満に抑えること、そのために先進国は中期的には25〜40%温室効果ガス排出を減らす必要があることが、共通の認識になっています。日本はまったくそうなっていない。日本は世界の動きに付いていけていない。
日本のどこが遅れているかというと、経済界と産業界です。世界の企業はアメリカも含めて、温暖化問題を戦略化して、きちんと対応できなければ、企業はこれから生き残れないと考え、温暖化問題はチャンスだととらえています。
しかし、日本の産業界はCO2排出を減らさず、減らす展望もない。だから高い中期目標を掲げられず、それが政治の足を引っ張り、国際交渉の足を引っ張っています。これが今後、日本経済が落ち込んでいく最大の要因となり、雇用など国民生活にとっても深刻な問題になっていくでしょう。
しかし京都会議の時も当初マイナス2・5%だった日本の目標が、条約交渉のなかでヨーロッパが8%、アメリカも7%になって、日本も6%まで譲歩せざるを得ませんでした。今回の日本の中期目標も、国際交渉の中で引き上げを余儀なくされるでしょう。勝負はまだまだこれからです。
市民の意識が情勢を動かす
今、温暖化防止にむけて一番必要なのは、市民が今年12月にデンマークで開催されるCOP15(国連気候変動枠組条約締約国会議)に関心を持つことです。市民の意識が情勢を動かします。市民が関心を持つと、マスコミも報道を始めます。そして何でもいいから行動すること。署名もその一つだし、家電売り場に行って、店員さんに「もっと省エネの物はないの?」と聞いてみるだけでも、それがメーカーの商品開発に生かされますから、温暖化防止に向けたアクションになります。こういう世論の積み重ねが大切です。
そしてもっと大切なのは、選挙での投票行動です。温暖化政策をしっかり持っている政党・候補者に投票する。公害問題も公害対策を主軸に据えた公約を掲げた革新自治体が生まれたことで対策が進みました。今年はせっかく総選挙があるのだから、ここでの投票行動がとても大切だと思います。
第34回全国公害被害者総行動デー
「なくせ公害 守ろう地球環境」をスローガンに、6月1、2の両日、第34回全国公害被害者総行動デーが取り組まれました。全国から集まった公害被害者団体や環境団体の代表者らが、環境省や厚生労働省、農水省などと交渉、デモ行進などを行いました。
日比谷公会堂で開かれた総決起集会には、115団体、1100人が参加。
ノーモア・ミナマタ国家賠償訴訟団から、原因企業のチッソを分社化して再建する一方で、被害者救済には背を向けた「水俣病特別措置法案」が与党から提案されるなど、緊迫した情勢を迎えていることが報告されました。被害者の一人、吉海ヤエ子さんは「病気のせいで夫とも離婚し、何度も自殺しようとした」などと述べ、早期救済を訴えました。
(新聞「農民」2009.6.15付)
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