「農民」記事データベース20090525-877-06

このままでは09年産米価大暴落の危機
農政の大転換で日本の米を守ろう

農民連ふるさとネットワーク事務局次長 横 山 昭 三


過去最大の値下げ競争

 1俵換算で5000円超の値下げも

 いま消費地の大手量販店は、「生活応援プライス」などと銘打って米の大幅な値下げキャンペーンを展開しています。特に4月以降、前月比で200〜300円(5キロあたり)といった値下げが軒並みで、中には500円以上値下げのケースもあり、これを玄米1俵あたりに換算すれば、5000円を超える値下げになります。米業界紙は「値下げ競争、過去最大規模」(米穀新聞、4月16日)と伝えています。大手米卸と組んだこうした極端な値下げは、産地に対する買いたたきにつながります。

 米の安売りの背景には、深刻な不況下での消費者の低価格志向や、小麦の価格下落を契機とした粉食への回帰、汚染米不正流通事件の心理的影響による消費の低迷があると考えられます。実際に、総務省の調査でも、米消費は1月以降毎月、前年を4〜5%下回っています。外食産業や事業所給食の激しい落ち込みも大きく影響しています。

 「需給は均衡」のはずなのに

 農水省は、昨年11月に決めた「基本指針」において、08年産米の生産量を866万トン、需要を855万トンと予測。2月に集荷円滑化対策を発動して「豊作過剰分」10万トンを買い入れ、変則的に備蓄米に充当し、「需給は均衡」としてきました。しかし、米卸業者の間では「米は過剰」との見方が広がっており、農水省の予測はすでに覆されています。

 しかし農水省は、3月の「基本指針」見直しの際も「均衡」との見通しを変えず、しかも「備蓄米は買い上げしない」と言明したため、米業界では「需給は締まりようがなくなった」と見ています。

 先行き不安で米が買えない

 米業者は、先行きの米価下落への不安から必要最小限の米しか手当てしないため、過剰感が広がっています。コメ価格センターが入札を休止しているため、米価下落は表面化していませんが、業者間の取引相場は昨年秋に比べて60キロあたり1000〜1500円も下落しています。

 また、米を抱える中小の業者は、「新米が出ても当分は買えない」と見られ、このままでは秋の新米価格に重大な影響を及ぼすことは必至です。

今年も田植えがすすんでいますが、米価の見通しには不安がつのります

安定供給の責任を放棄する自公政権の農政

 自ら決めた「備蓄ルール」も知らぬ顔

 農水省の無責任な備蓄政策も、米価暴落の大きな要因です。農水省は備蓄米を「100万トン程度が適正水準」として、売れた分だけ買うことをルールとしています。昨年6月末の在庫量は99万トン、今年6月までの販売量は21万トン程度と見込まれています。今年6月末の「適正」在庫のためには、最低22万トンの買い入れが必要です。

 しかし農水省は、正規の備蓄米の買い入れはまったく行っていません。今年2月の「豊作過剰分」の買い上げは本来、備蓄とは別のルールで行われ、「主食やミニマムアクセス(MA)米にも影響を与えない米粉などに用途限定」されるもので、備蓄米にカウントすべきものではありません。

 農水省は、買うべき備蓄米を買わないだけでなく、超古米(05年産)を1万2000円台(60キロあたり)の安値で売り浴びせ、米価暴落に拍車をかけています。

 米価暴落を目の前にしながら自ら決めたルールさえ守らない農水省は、あまりにも無責任といわなければなりません。

 傍観者的な「生産調整シミュレーション」

 一方で政府・与党は、近づく総選挙を前に、矛盾を深める減反施策を見直すとしています。農水省は4月22日、議論のたたき台にするとして、5例のシミュレーションを発表しました。

 これは、生産調整を「今よりも強化」「現状維持」「緩和(2例)」「廃止」した場合に、それぞれ米の生産量や価格がどのように変化するかを試算したものですが、たとえば「廃止」した場合、米価は60キロあたり7500円になり、やめる農家を想定してか5年後には1万100円まで回復するなどと、生産者を冷酷に突き放す数字が並びます。しかも、生産調整を「強化」した場合でさえ、農家の手取りは60キロあたり1万5493円に過ぎず、これでは農水省自身が公表している直近の生産費(1万6412円)すら償えない代物です。

 どの道を選んでも日本の米を守りようがない選択肢を農家と国民に押しつけ、自らは傍観者を決めこむ無責任なシミュレーションを、容認することはできません。

米政策は総選挙の一大争点――食糧主権の道へ踏みだそう

 備蓄米の買い上げをただちに

 市場まかせの米流通のもとでは、わずかな過剰が価格の暴落を生み、わずかな不足が暴騰を生みます。09年産米価の暴落を防ぎ、需給と価格の安定をはかるために、市場の「過剰感」を払拭することが緊急に必要です。当面、政府が自ら決めたルールにしたがって、ただちに備蓄米の買い上げを行うべきです。

 農民連は4月22日、農水省に対して「08年産米の20万トン規模の買い上げ」の緊急要求を行いましたが、この要求をすべての農家と国民の声にして必ず実現させましょう。

 農家も消費者も安心できる生産と流通の仕組みを

 そもそも、いくら計画的生産を徹底しても、流通はまったく野放しで、政府自ら備蓄ルールを守らず、わずかな過不足で価格が乱高下するようでは、主食の米の安定供給はおぼつきません。

 「米が多少余っても米価が下がらない」、「不作になっても国民が困らない」、そういう仕組みをつくることこそ、政治の責任ではないでしょうか。農家が安心して生産に取り組める価格保障・所得補償の制度と、国民が安心できる米の備蓄や流通管理の制度を国の責任でどうつくるか、このことが問われています。

 農業予算(09年度補正)は、小規模農家から農地を取り上げ農業から締め出すためにバラまくのではなく、食糧の増産と、安定的な供給のためにこそ使われるべきです。

 WTO体制を打破し、食糧主権の道へ

 日本の農業をゆがめているおおもとに、自由貿易と国際競争を最優先にするWTO(世界貿易機関)協定の枠組みがあります。自分たちの食糧・農業政策を自主的に決める権利―食糧主権の考え方を対置して、必要な国境措置などを確立することを要求しましょう。

 とりわけ、協定上での義務ですらないのに、毎年77万トンも輸入されているMA米は、今日の米「過剰」と米価暴落のもう一つの大きな原因であり、カビ毒などの汚染米として国民の食の安全を脅かしています。「MA米をどうするのか」。これも総選挙での国民的な争点とすべきです。

(新聞「農民」2009.5.25付)
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2009年5月

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