「農民」記事データベース20090525-877-01

農産物は多様な生き物とともに
生み出されてくるもの

紀ノ川農協(和歌山)がめざす元気な農業有機の里づくり

画像 「土と水、そして生き物を大切にして、元気な農業をめざそう」――地球温暖化がますます深刻さを増すなかで、地域の農業を発展させて、農村環境を保全していこうという模索が始まっています。和歌山県紀ノ川農協(販売専門農協、農民連加盟)の「新たな産直運動」への挑戦を追いました。


環境保全型農業と一体の「新たな産直運動」に挑戦

 有機農業をやりませんか

画像 「君の農業は環境保全型じゃない。環境“破壊”型農業だ」――イチゴ農家の井上達也さん(28)=写真=は、紀ノ川農協が昨年4月に開催した研修会で、有機農業を実践する西出隆一さんに、こう指摘されました。

 「すごい衝撃だった。でも土壌診断をしたら、本当にうちの畑は肥料過多だった。有機農業に取り組むようになって、虫も菌も殺し尽くすのではなく、作物を強く育てることが安全なもの作りにもなって、環境保全にもつながるんだと肌で感じるようになった」と井上さんは言います。

 紀ノ川農協は昨年から、地域の広範な有機農業生産者、JA、有機認証団体、県や市などと共同で、地域の有機農法推進協議会を設立。「有機の里づくりプロジェクト(有機農業モデルタウン事業)」に取り組んでいます。事業が目指しているのは、環境に負荷を与えない「有機農業」や「環境保全型農業」です。米ヌカやモミ、鶏ふん・牛ふんのたい肥など地域にある有機物を活用し、農薬・化学肥料に依存しない農業への発展をめざしています。

 昨年は、勉強会やイベントを企画し、実験ほ場を設置。ビラで「有機農業をやりませんか」と地域に呼びかけ、有機農家での数十回にわたる研修などを行ってきました。

 地域全体を発展させたい

 しかし「最初は、環境保全が有機農業の目的だったわけでも、有機農業がやりたくて農業を継いだわけでもなかった」と言うのは、畑作農家の畑敏之さん。紀ノ川農協の30年におよぶ生協産直のなかで、消費者から最も多く寄せられた要望が、「安全・安心な農産物が食べたい」というものでした。「どうしたらこの声に応えられるのか、という生産者の熱意と試行錯誤のなかで、30年かけて徐々に有機農業に進んでいった」と畑さん。

 紀ノ川農協の産直運動は地域にも大きな影響を与え、さまざまな有機農業グループが誕生。そして1997年、農業委員会などでの組合員農家の奮闘も相まって、JA、農業委員、行政、農民連が一堂に会して、「紀ノ川 有機の町づくりシンポジウム」が開催され、その後の街づくりと農業の発展にむけた大きな流れとなりました。

 そしてもう一つ、大きな転機となったのが、1994年から10年間にわたって取り組んだ「地域調査」です。「地域でがんばっている農家は組合員以外にもたくさんいる。その農家の思いを私たちは感動を持って受け止めてきただろうか。大きな反省点となった」と組合長の宇田篤弘さんは振り返ります。そしてこの調査は、「地域農業の発展のなかでしか、紀ノ川農協の発展もない」という大きな確信となり、地域全体で環境保全型農業に取り組む力へとなっていきました。

紀伊水道を望む絶景の畑敏之さん(左から2人目)の段々畑。右端は宇田篤弘さん

 命を共感できる産直運動へ

 紀ノ川農協は今、環境保全型農業と一体になって、「新たな産直運動」を模索しています。宇田さんは言います。 

 「農産物や食べ物は単なる商品ではなく、農村の生態系の中から、多様な生き物とともに生み出されてくるもの。私たちの食べ物は“生き物”であり“命”なんだ、ということを、消費者と生産者が共有できる、そんな産直運動がこれからは求められていると思う」

 農村の生態系や生物多様性は、ため池や水路の管理など地域農家の共同の営みがあって、維持されるものです。生協の消費者との産地交流も、農作業の体験とあわせて、農村そのものを知り、体感してもらえるものへと変わってきました。

 「農産物価格の暴落のもとで、今、農村は危機にひんしている。そういう厳しい現実も消費者に見てもらい、持続可能な農業・農村をどうやって守っていくのか、ともに考える産直運動にしていきたい」と宇田さん。

 紀ノ川農協は生協産直だけでなく、地域の生産者とともに学校給食への出荷や、教育ファーム、新規就農支援などにも積極的に取り組んでいます。「消費者との接点をたくさん作って、農家自身も農業の価値をとらえなおす必要があると思う」と畑さん。「それはすごくたいへんなことだけど、そのエネルギーを農村に運んで来てくれるのが、新規就農や若い人たちだとボクは大いに期待してるんだ」と、話してくれました。

(新聞「農民」2009.5.25付)
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2009年5月

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