農地法「改正」案についての
衆院農水委での意見陳述
原田 純孝・中央大学大学院教授
4月14日、農地制度に詳しい中央大学大学院の原田純孝教授(東京大学名誉教授)が衆議院農水委員会で参考人として意見陳述しました。その一部を紹介します。
法案の最大の眼目は、賃借権の設定に係る許可規制の大幅な緩和、自由化にあります。例えば、東京に本社のある食品会社、一般の株式会社等が、鹿児島県で地元の元農家から直接相対で農地を借り受け、派遣した従業員によりその食品会社の事業活動の一部として農業経営を行うことも、何の問題もなくなります。
一方で貸借による農業経営者については、農作業への常時従事要件を不要としながら、他方で所有権による農業経営者に限っては、農作業への常時従事要件を課すことは、至難のわざのように思われます。
借地と所有地区別の根拠なし
第一に、所有権に関する特別の法規制の存続は、もはや耕作者主義の原則で説明することはできません。借地による農業経営と所有地による農業経営とで、農業経営のあり方、すなわち農作業への従事要件を別々に取り扱う根拠は見出しがたいからです。貸借と所有権とで規制内容を異にする根拠が薄弱であればあるほど、所有権の取得も同じ扱いにすべきだという議論が、ほどなく登場するのは必至ではないでしょうか。
例えば、一般の企業がまとまった農地を借りた場合、多くの農家が貸すわけですから、地主になって貸し付けた農家の側が、相続その他の事情で売りたいということは当然出てくると思います。しかし、法律の文言の上では、企業は買えません。他方、底地ですから、底地をだれに売るかというときも、底地を買える規定がない。そうすると、売りたくても売れないことになりますから、当然、制度としておかしいじゃないかということになります。
原則と例外とが逆転することに
第二に、新しい第1条の「農地についての権利」には当然に所有権も含まれますから、「農地を効率的に利用する者」、例えば大規模経営を営む先ほどの食品会社などが、単に賃借権だけでなく所有権をも取得することが適切だというのが、第1条です。そして、所有権の取得に限って現行の厳格な許可規制を維持するとする規定は、原則に対する例外的な措置ということになるのです。いわば原則と例外が逆転するわけで、改正後におけるその規定の存在根拠は、この点でも大幅にぜい弱化せざるを得ません。
第三に、現行の第1条にあった、耕作者の権利を保護し、耕作者の地位の安定を図るという目的もなくなっています。貸借による効率的利用を目指すのであれば、農地賃借人の経営の法的保護と安定化の措置は不可欠なのではないでしょうか。しかし法案では逆に、標準小作料やそれに基づく減額勧告等の制度は廃止になります。
所有権の規制は消えていく宿命
以上、貸借による農業参入は大幅に自由化するが、所有権取得については特別の法規制を維持するという法案の基本的な立脚点に、大きな問題が伏在していることがわかります。貸借については耕作者主義の原則を単純に外すというやり方をすると、所有権取得に限っての特別の法規制は、改正後の新しい農地法の中では、存在根拠の乏しい、そして例外的で、かつ宙に浮いた規定となってしまうのです。そして、やがて近い将来には消えていくべき宿命を背負わされているようにさえ見えます。
(新聞「農民」2009.5.4付)
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