農のくらし体験できる
農家民宿
福島・南相馬市
おいしいお米に季節の野菜。心づくしの料理と農業体験で都会の人をもてなす「農家民宿」が人気です。農民連会員も積極的に取り組んでいる福島県南相馬市を訪ねました。
(町田常高)
女性パワーで地域を元気に
JR常磐線鹿島駅から車で北へ10分。農家民宿「森のふるさと」は、水田がひろがる鹿島区(旧鹿島町)南柚木(みなみゆぬき)地区にあります。周囲を見下ろす高台に大きな母屋や離れ、倉庫などが並び、入り口にはマンサクの花が揺れています。玄関を入ると、宿を切り盛りする森キヨ子さんの笑顔が迎えてくれました。
森さんの家は、2ヘクタールの水田と50アールの野菜畑を耕す兼業農家で、週末を中心にお客さんを受け入れています。「減農薬、無化学肥料で作ったおいしいお米と新鮮な野菜をたくさん食べてほしい」と民宿を始めました。それだけに、夕食のお膳(ぜん)には自慢の食材がいっぱい。取材の日は、ウドやフキノトウの天ぷら、セリのおひたし、間引いたカブの漬け物など、自家の畑や屋敷まわりで採れた野菜や山菜が次々に出されました。さらに、近くの海でとれた新鮮な魚、知人がしとめたイノシシの肉も並び、食べきれないほどのごちそうです。
Iターン夫婦もいっしょに開業
森さんのとなりの小倉ヨシ子さんは、農村の暮らしにあこがれて千葉県から夫婦で移ってきました。たまたま引っ越してきた時期に森さんが民宿の開業準備中で、誘われるまま、いっしょに農家民宿と農家レストラン「翠の里」を始めました。庭先のハウスと鶏小屋のほか、森さんからも畑を借りて野菜や卵を自給しています。レストランは予約のみで、看板も出していませんが、口コミで評判を呼び、週に3日は営業。「畑仕事を考えれば、これで精いっぱい」だとか。民宿の仲間が集まる場所にもなり、「地域の人たちといいおつきあいができた」と楽しそうです。
料理勉強会などに10軒協力し合い
鹿島区には10軒の農家民宿があり、「鹿島都市農村交流研究会」をつくっています。5年ほど前に旧鹿島町が「グリーンツーリズム」による町おこしを掲げて以来、行政とタイアップして研修会や視察旅行などを重ね、2005年12月に10軒そろって「農家民宿」の営業許可を取りました。いまも、パンフレットの作成、宿泊受け入れの調整、料理の勉強会などで、協力し合っています。
会長の小野田等さんは、「低米価の時代、消費者に泊まってもらうことは農家にとって貴重な副収入であるだけでなく、販売のチャンス」といいます。おいしさを直接体験してもらうとともに、農業体験を通じて生まれる安心・安全への信頼は何ものにも代えがたいアピールになるからです。
森さんも「米価は下がるし、不景気で兼業も先細り。農家民宿で活路を開きたいと思っています。お客さんにたくさん来ていただいて、わが家の自慢のお米や野菜も買ってもらいたい」と語ります。
他の地区でも5軒が新規参入
南相馬市では、小高区(旧小高町)を中心とする地域でも5軒の農家が昨年12月に「農家民宿」の営業許可を取得しました。鹿島区の10軒とともに、国の事業である「子ども農山漁村交流プロジェクト」(小学生の長期宿泊体験活動)を受け入れようと準備を進めています。
小高区の農民連会員・渡部チイ子さんは、「農家民宿はお母さんの創意工夫が生きる取り組みです。女性パワーで地域を元気にしていきたい」と張り切っています。
(注)農家民宿
農業体験ができる、客室面積が33平方メートル未満、などの条件を満たすと、旅館業法や建築基準法、消防法の適用基準が緩和され、比較的容易に民宿を開業できます。
(新聞「農民」2009.3.23付)
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