豚と環境に優しい
新肥育豚舎が完成
海老名畜産(神奈川・愛川町)
神奈川農畜産物供給センターを通じて、生産者と消費者が手をつなぐ会(神奈川)や新日本婦人の会などに産直豚肉を提供している海老名畜産有限会社(神奈川県愛川町)。今年に入って新肥育豚舎が完成し、豚と環境に優しい養豚の取り組みが始まりました。
床面が温か、においがしない
安全でおいしい豚肉
海老名畜産はこれまで愛川町三増地区の本場で母豚300頭の経営を行ってきましたが、廃業した養鶏場を借り受け、自然農法を駆使した肥育豚舎2棟(約4000平方メートル、収容規模3500頭)を新築しました。今後は、本場で繁殖・分べん・離乳、新築舎で肥育を行うことをめざします。
海老名畜産社長の松下憲司さんが実践している自然農法とは、近隣の竹やぶから取ってきた土壌由来の土着菌を使って、豚のふん尿とおがくずを発酵させ、たい肥化する方法です。土着菌には、乳酸菌やこうじ菌などさまざまな菌が含まれます。
土着菌とくず米、黒砂糖を3・3・1の割合で混ぜて培養し、さらにせん定した枝、赤土、岩塩などで培養したものを豚舎の床に敷きます。発酵している状態の床なので、床表面は温か。豚も気持ちよさそうに寝転んでいます。「豚舎が広々とし、温かいから、豚の健康状態もよく、安全でおいしい豚肉を提供できます」と松下さんは自信をみせます。たい肥は近所の農家などに販売する予定です。
多大な苦労のすえに
新豚舎の一番の特徴は、においがほとんどしないこと。豚のふん尿を土着菌が分解するために、豚舎特有のにおいが出にくいしくみになっています。
環境にも配慮した自慢の豚舎は、新築するにあたっての大きな課題で、ここまでたどり着くのに多大な苦労が伴いました。一昨年、新豚舎建設の計画を公表したとき、豚舎周辺で「建設反対」のデモ行進があったり、多くの反対署名が集まるなど、近隣住民の反対運動が起こりました。
松下さんは、住民への説明会に一人で出向き、においの出ない豚舎であることを粘り強く説得し、理解を求めてきました。
流れが変わったのは、この問題が神奈川県議会で取り上げられたとき。松沢成文知事が都市型畜産の重要性を述べ、「農業の振興を図る」と表明しました。昨年6月には、海老名畜産、愛川町、地域住民の間で協定書が結ばれ、7月の着工にこぎつけたのです。
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「土着菌の働きでにおいがしません」と話す松下さん
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広々とした豚舎
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都市近郊でも養豚を
飼料・資材の高騰など養豚をめぐる厳しさは依然として変わりはありません。最近少し下がったとはいえ、飼料代は「3年前の1・5倍で高止まりしている」(松下さん)状態です。廃業する仲間も後を絶ちません。
それでも消費者の健康を考え、多少割高な非遺伝子組み換えトウモロコシ、大豆の飼料にこだわる松下さん。新豚舎を前に「都市近郊でも、環境問題をクリアして畜産・養豚ができることを証明し、がんばっている同業者を激励したい」と強い決意に燃えています。
(新聞「農民」2009.3.16付)
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