「農民」記事データベース20081208-856-01

関税の大幅削減免れず
MA米輸入さらに50万トン増

WTO 急きょ12月開会
最終合意に向け緊迫!

最悪の合意は断固拒否せよ


 7月に決裂し「年内合意は無理」(WTOラミー事務局長)のはずだったWTOドーハ・ラウンドが、アメリカ発の金融危機を引き金に、再び「火葬場」近くから引き返し、亡霊のごとく立ち現れようとしています。

 アメリカ発の金融危機から

 南米ペルーのリマで開かれていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)は11月22日、「特別声明」を発表し、WTOドーハ・ラウンドの大枠合意(モダリティー)を12月に達成することを「誓約」しました。これは、アメリカ発の金融危機=「ばくち経済」の破たんを原因とする世界経済の悪化から、保護主義の台頭を抑えるため、1週間前に開かれた主要20カ国による金融サミットで「努力」としていた表現をさらに強めたものです。これを受けて、WTOの閣僚会合が12月中旬にも開かれる見通しです。

 麻生首相は「攻めるべきは攻め、守るべきは守る」と言っていますが、このまま決着すれば日本農業を壊滅に追い込む危険があり、きわめて重大な局面を迎えようとしています。

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WTO香港閣僚会議で抗議デモをする農民連(2005年12月)

 全品目の8%求めているが

画像 決裂した7月の案をたたき台にした最終合意案の焦点は、関税の大幅削減の対象から除外される重要品目をどう確保するか、さらに関税の大幅削減を免れたとしても、その代償としてミニマム・アクセス(MA)米の輸入枠が大幅に拡大されることになるのか、ということです。

 日本は、重要品目の数では全品目の8%を求めていますが、各国は「原則4%、最大でも6%」が大勢です。日本の主な高関税品目は、米や小麦、乳製品、でんぷん、砂糖、コンニャク芋など169ありますが、全品目の4%では53、最大6%でも80品目にすぎません。とても「守るべきは守る」などといえる状況ではありません。

 新たな調停案でも輸入枠拡大

 さらに問題なのは、重要品目を設定すれば低関税での輸入枠の拡大という代償を求められることです。4%の場合は国内消費量 の3〜4%輸入枠を拡大し、さらに最大6%にすれば追加されるという案、また農業交渉のファルコナー議長が示していると言われている新たな調停案では、5〜6%の拡大を求めています。これを米にあてはめれば、図のように年間の国内消費量 を900万トンとして、MA米は現行の77万トンから最大で122万〜131万トンに増えることになります。政府は需要もないMA米を「義務だから」と言って、さらに現行より50万トンも多く輸入しようというのでしょうか。

 WTO時代は終わり告げた

 減反を強いられている農民にとっても、汚染米事件でイヤというほどMA米の“罪”を知った消費者にとっても、これは最悪の選択肢です。

 11月6日に開かれた長野県の農業委員大会は「今後、『事故米』を不正規流通させないためにも、MA米の廃止を含めて、わが国提案の見直しを行う」よう決議をあげました。

 麻生首相が「攻めるべきは攻める」と言うのなら、MA米の廃止こそ提案すべきであり、このような最終合意案は断固拒否すべきです。

 世界では、米不足のために“米騒動”が起きています。日本のように、いらない国がいらない米を輸入する余地などありません。WTOの議論は、地球をおおっている食糧危機の実態をまったく無視した“宇宙人”のような議論です。

 食糧危機、飢餓と貧困の拡大、地球温暖化という人類的課題を解決するためには、食糧主権にもとづく農業・貿易ルールこそ確立されなければなりません。WTO流の自由貿易原理主義の時代は、終わりを告げました。ましてや「ばくち経済」の破たんを“景気回復のためには自由貿易だ”などと言ってWTOを引っ張り出し、世界の農民に犠牲を強いることは断じて許せません。

(新聞「農民」2008.12.8付)
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2008年12月

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