消費者庁の設置・汚染米事件について
「食の安全・監視市民委員会」代表
消費者行政にくわしい弁護士
神山 美智子さんに聞く
プロフィル 日本弁護士連合会で公害対策・環境保全委員会やダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議などのメンバーとして活躍。食品安全委員会が設立された際、消費者代表を加えなかったことから、消費者・農業者、市民団体などが「食の安全・監視市民委員会」を結成しました。
福田前首相は今年1月、食品の相次ぐ偽装事件を受けて「消費者行政を統一的かつ一元的に推進するため、強い権限を持つ新しい組織」として消費者庁の設置を打ち上げました。9月に誕生した麻生内閣はこの方針を受け継ぎ、いま開かれている臨時国会に「消費者庁設置法案」を提出。国会での審議が始まろうとしています。消費者行政にくわしい弁護士で「食の安全・監視市民委員会」代表の神山美智子さんに、消費者庁設置の問題点や汚染米事件について聞きました。
〈消費者庁設置〉
強い権限もち統一的に対応するなら
〈食品安全委員会〉
消費者・生産者など加え本来の役割を
〈汚染米不正流通〉
農水省の責任重大、MA米輸入を批判
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危機意識ない限りすべて無意味
―来年度発足を予定している消費者庁の設置について、どう考えますか。
神山 いまの消費者行政は、パロマのガス湯沸かし器やコンニャクゼリーなど、人命にかかわる事故が起きているにもかかわらず、どこが対応するのか、省庁間で責任を押し付けあっています。消費者庁をつくって、このような事故への対応を強い権限を持って統一的に行うなら、賛成です。また、地方の消費センターをきちんと法的に位
置づけ、国の予算で職員を配置できれば、消費者庁の設置も決して否定しません。
しかし、食品の偽装や中国製冷凍ギョーザ、汚染米など食の安全・安心にかかわる事件は、生産・流通段階という、いわば川上で起きた出来事です。消費者庁ができても、とくに規制緩和路線が続く限り川上を変えることはできないし、川下である消費者にとってはなんの解決にもなりません。そしてどんな行政機関を設置しようが、何よりも危機意識がない限りすべて無意味だと思います。
意見が各省庁に勧告できてこそ
―消費者庁設置によって、これまでの食品安全委員会はどうあるべきなのでしょうか。
神山 私たち食の安全・監視市民委員会は、食品安全委員会にその本来の役割を果たさせるために、食品安全基本法の改正を求めています。EUの食品安全委員会(EFSA)には、消費者代表も事業者代表も入った管理委員会と科学パネルがあります。しかし、日本の食品安全委員会にはEFSAで言えば科学パネルしかありません。ですから、汚染米事件が起こったときも「残留基準を2倍超えているが、健康被害が起こる可能性はない」などという委員長談話を出すわけです。今回の一連の事件を通じて、消費者保護を目的に設置された食品安全委員会が「緊急の事態への対応」ではまったく役に立っていないことが明らかになりました。リスク評価しかしない食品安全委員会は不要です。
消費者庁ができれば、首相や各省庁の大臣に意見具申できる消費者政策委員会が置かれます。EFSAの管理委員会のように、この消費者政策委員会に消費者・生産者、幅広い学者・研究者が参画し、食糧政策や食品安全政策、そして学校給食のことまで幅広く検討して、意見を各省庁の大臣に勧告できるようにしなければなりません。
汚染米事件の教訓反映されれば
―神山さんは、内閣府に設置された「事故米穀の不正規流通問題に関する有識者会議」のメンバーでもあります。有識者会議ではどのような議論がなされているのでしょうか。
神山 有識者会議では8人の委員が、原因の究明や責任の所在、再発防止に向けた改善策を11月中にまとめようと議論していますが、内閣府はこの有識者会議を、消費者政策委員会の前倒し機関として位置づけたいようです。
20日に報告書案(第1次取りまとめ)が公表されました。そのなかでは「2001年に起こったBSE問題の反省がまったく生かされていなかった」と厳しく指摘しました。また、不正規流通を防止できなかった農水省の責任は重大で、現場の職員だけ処分して事を済ませるのではなく、責任ある地位にある人たちの厳正な処分が求められます。
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BSE対策に関する食品安全委員会のリスクコミュニケーション |
一方、報告書案ではミニマム・アクセス(MA)米の輸入について「転作の強化を行わないこととする閣議了解が行われたが、無理のある政策決定であったとの指摘があった」と明記しました。また農水省は、チャーハンや弁当など米を原料とする食品に、原産国の表示を義務づけることも明らかにしています。いままでより踏み込んだ内容となっているのではないでしょうか。
関係省庁の情報共有や密接な連携など、今回の汚染米事件の教訓が、消費者庁の設置に反映されるようにしていかなければならないと思っています。
(新聞「農民」2008.12.1付)
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