重油を多量に使う
施設園芸農家も
重油・肥料・段ボール次々高騰
経営は“火の車”
日本一の菊の生産を誇る愛知県田原市の渥美半島。菊は温度が低いと花芽の生育が遅れ、奇形や発色の低下が発生するので、ボイラーをたき続けなければなりません。年間に使用する重油は50キロリットル以上。重油や農薬、肥料に段ボールと、相次ぐ生産資材の高騰で、生産者から「コスト削減にも努力してきたが、もう限界だ」「今年の冬が正念場」と怒りの声があがっています。
愛知・渥美半島の
電照菊農家にみる
年3作を2作に
お彼岸などでお墓参りのときにお供えする花といえば、菊です。ここ渥美半島では、約1000戸の農家が菊を栽培。そのほとんどが電照設備や暖房設備を持った温室、ビニールハウスなどの施設園芸です。特に、輪菊と呼ばれる白や黄色の大輪の電照菊は、教科書に紹介されるほど有名。愛知県で始まった電照栽培は、花芽が出る前に電気で照らし、人口的に昼の時間を長くすることで自然な開花時期より遅く花を咲かせます。この技術で、最も需要の多い正月から春のお彼岸の間に出荷できるようになり、今では一年中栽培・出荷されています。
今年の冬が正念場だ
「今朝の温度が11度だったので、この秋初めて油をたいた」というのは、8つのハウスで菊を栽培している森下長征さん(38)。「いま1年3作だけど、油の使用料を減らすと生育が遅れて2作になってしまう。そうすると、収入が減る」と言います。また、20歳過ぎから親を継いで菊づくりをしてきた中川亮さん(43)は「油代が一番かかるのが1月から2月。コストを減らそうと、この冬場の栽培を控える人も出てくる。そうすると春場に出荷が重なってしまって、逆に値が暴落してしまう。コストがかかるからといって、売り値が上がるわけじゃない」と、重油高騰には打つ手がありません。
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ハウスの中で菊の手入れをする中川さん(左)と森下さん |
06年の3倍にも
「せめて50円代まで下がってくれれば、なんとかやっていける」と言う中川さんや森下さん。2006年に1リットルあたり40円代だったものが、今年には最高126円と3倍にまで高騰。現在は約88円まで下がってきましたが、それでも06年当時の2倍です。原油高騰の最大の原因は、ヘッジファンドなどの投機マネー。投機を規制し、マネーゲームで膨大な利益をあげている石油メジャーにも応分の負担を求めるなどの対策が必要です。
テロ特措法で2001年からインド洋上のアメリカ艦船に日本の負担で給油した燃料代は6年間でおよそ225億円。アツミ産直センター代表理事の鈴木信次さんは「テロ特措法を延長して、アメリカ艦船に油をただでやるくらいなら、農家や漁民にまわせと言いたい」と怒ります。これが国民の声です。
農水省の08年度緊急対策は――
あれこれ条件あって利用できない
農家の願いにこたえる制度見直しを
農水省は、2008年度補正予算に「肥料及び施設園芸用燃油の価格高騰に対する緊急対策事業」(500億円)を盛り込みました。この制度は図のように、農家の自助努力で使用量
を2割以上削減した農業者グループを対象に、使用量増加分の7割を助成するもの。肥料対策では、減反実施も条件になっています。
問題は、条件となっている2割以上の削減。農水省が「省エネ効果の高い技術・取り組み」としてあげているのが、ヒートポンプや木質バイオ利用加温設備の利用などで、どれも新たな設備投資が必要なものばかり。しかも、ビニールやパイプも高騰しているため、コストを低減するために膨大な経費がかかります。
「電気とかガスはたしかに油に比べればコストは安いけど、それに付随する設備がたいへん。簡単に切りかえることなんかできない」と中川さん。まったくなんのための緊急対策か、疑問視されるのも当然です。農水省の資料を見た森下さんは「これじゃ、余裕のある農家しか利用できない。条件など付けずに助成してもらえないものか」と、2人ともガッカリした表情です。
さらに、基準となる前年度の燃料費は、全国平均で1キロリットルあたり8万9000円で算定。最近の値下がりから、今秋の燃料価格は前年度より低い8万8000円。これでは助成もされず申請するだけムダというもの。農水省では「こうしたケースは想定していない」と見て見ぬふり。
農水省は、農家の生活を安定させるため、農家の願いにこたえる制度に見直すべきです。
(新聞「農民」2008.11.10付)
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