給食に汚染米 その背景は?
汚染米は、学校や病院の給食にも供給されていました。安全性がもっとも重視されるべき現場でなぜ…。その背景について、関係者に話を聞きました。
学校給食
献立作成、食材の注文が肝要
父母や教職員の努力あれば
東京都杉並区の沓掛小学校に、栄養士・壽原(すはら)とみ子さんを訪ねました。
東京23区内の小中学校では、給食は各学校の給食室で調理しています(自校方式)。
「たとえば“だし”は料理に合わせ、煮干しとりがらになっています。コロッケもジャガイモをつぶすところから始めます」と壽原さんは教えてくれました。
また、食材は当日配送、当日調理が原則なので、冷凍食品を保存するような施設はありません。汚染米事件で問題になったオムレツに米粉を入れる作り方や注文は、想定されていないのです。
しかし、学校給食にも「合理化」や「民営化」の波が押し寄せています。沓掛小学校でも、調理の作業は民間委託です。しかし、栄養士が給食管理の要―献立作成と食材の注文を限られた給食費でよく吟味し、より安全な食材を選ぶ努力をしています。一部の地方で問題のオムレツが使用されてしまった背景に、この2つと「給食が食の教科書(手本)」と考えていないことがあるのではないでしょうか。
東京都の場合は、豊かな給食をつくろうと努力する父母や教職員組合のさまざまな運動が有形・無形の成果を蓄積しています。都の学校栄養職員は2校に1人で、地域によっては未配置校を区市町村費で配置している所もあります。だから、食の専門家の栄養士が大勢います。
「より根本的には、WTOの下で食料を外国任せにしている問題ではないでしょうか。農家が、安全なものを安定して作れるように、農政を転換してほしいです」と壽原さんは指摘します。「私たちも子どもたちに給食を提供するとともに、食教育を重視しています。食べものをつくる仕事は体や心を作り、生活や文化をつくる仕事です。農家の方々とも連帯しながら、さらに豊かな学校給食をめざしてがんばっていきたいと思います」
病院給食
委託業者が値下げ競争に
安い食材調達で汚染米が…
病院給食でも汚染米が供給され、患者さんらが食べてしまいました。
東京民医連に加盟する病院などは、2005年に共同で給食会社「給食協同サービスリップル」を設立し、給食業務を集中化することで、経費を削減しつつ、より安全でおいしい給食を提供しようと努力しています。同社専務取締役の江口正博さんに実情をきいてみました。
江口さんによれば、病院給食は、医療費削減の下で外部委託がいっそう進んでいて、食材調達や調理は、今回問題になった日清医療食品などの業者にすっかり委託している病院が少なくありません。これらの給食事業者は、厚労省が定める給食報酬を大きく下回る単価を示すことで、やりくりに苦しむ病院から契約を取り付けます。しかし、低単価はまた報酬引き下げの理由にされ、2006年の改定では、病院によっては2割近くもの引き下げになったといいます。
「そうすると、もっと安いところはないかということになり、業者はさらに値下げ競争にさらされます。現状はそういう悪循環で、汚染米問題もその中で生まれたのだと思います」(江口さん)。
給食業者の経営もギリギリで、従業員から「人は使い捨て、食材はどこのものかわからない」と嘆きの声も聞こえるほど。劣悪な労働条件のために従業員の出入りが激しく、食事の品質が安定しません。また、食材費も極端に抑えているため、献立が貧弱で患者さんの不評を買う状況も生まれ、委託した病院側も悩んでいます。
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病院給食は限られた食材費でのやりくりが続く(リップルのセントラルキッチン) |
「残念ながら今の給食業界は新自由主義経済の象徴のような状態。考え方を変えないと安心な病院給食は守れません」と江口さん。「私たちは社会保障費削減路線の転換を求めてたたかっていますが、労働者の権利を守るたたかいや、農業再生のたたかいも、障害になっている根っこは一つだと痛感しています」
(新聞「農民」2008.11.3付)
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