本の紹介
吉野宣彦著
「家族酪農の経営改善」
地域の実践研究を元に
経営改善の方向を助言
本書は、北海道の根室地域を中心に酪農経営の研究をライフワークとする著者が、学位
論文をもとに再構成したものです。本書の第一の特徴は、農協の取引データの分析や各戸への訪問調査など、フィールドワークを中心にすえた徹底した実証研究の手法で、酪農家の生産技術と経営管理の実情、経営強化のための課題を明らかにしていることです。これは、著者が学んだ北海道大学農業経済学科の伝統であると同時に、農家の暮らしの現実の中にこそ研究課題を求める著者の強い意志の表れといえるでしょう。
著者はこれらの調査から、同一地域、同一規模の農家間においても「収益性」など経営上の諸指標に大きな格差があることを示し、その情報を提供することが、各農家の経営改善につながると説いています。また、急速な大規模化に伴って取り入れられた新技術について情報提供が十分でなかったことが、農家の意思決定を困難にした経過にもふれています。
第5章では、経営改善の具体的な実践例として「マイペース酪農交流会」の活動に注目。参加農家の経営の変遷をたどりながら、農業者同士が交流し、互いの経営を比較することで、経営改善の方向と、それを実現する技術を見いだしていける、と主張します。
やや学術的な内容ですが、酪農をとりまく環境がいっそう厳しさを増している今日、打開の道を模索している人に手がかりをもたらす一冊です。
▼A5判 280ページ、本体価格4200円
▼日本経済評論社刊 TEL 03(3230)1661
(新聞「農民」2008.10.27付)
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