「農民」記事データベース20081013-848-04

投機マネーと農業・食糧(3)

中央大学名誉教授・商学博士 今宮 謙二


世界経済に大きな影響

 金融混乱は投機マネーの暴走で

 アメリカの保険会社AIGやリーマン・ブラザーズ破産など昨年8月から深刻化している金融混乱は、投機マネーの暴走によるものです。その背景には1980年代以降の新自由主義政策、すなわち金融自由化、市場原理主義、規制緩和があります。第2次世界大戦後、基本的に抑制されてきた投機取引が、この政策によって急速に広まってきたのです。

 その結果、金融危機が1987年の世界同時株安(ブラックマンデー)、97年のアジア金融危機、そして今回のサブプライム危機と、ほぼ10年ごとに起きています。

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ニューヨーク株大暴落を報道する各紙(9月30日)

 景気悪化と物価高騰が同時に…

 しかし今回の危機は、以前の2回と比べて大きな特徴があります。97年の危機と同じく、その原因は投機マネーの暴走にあるのですが、大きな違いは、世界的な景気悪化と物価高騰が同時に生じたことです。いま世界経済はきわめて深刻な危機に陥っています。

 その理由は、今回の危機がアメリカの住宅市場の崩壊にあるからです。アメリカ経済は、最近まで景気もよく、世界中のモノとカネを集めて発展してきました。アメリカが世界のモノを買えるのは、国民の購買力が拡大していたからです。

 アメリカ経済の約7割近くがこの購買力で支えられていましたが、なぜでしょうか。その一つの大きな原因として、アメリカ住宅ローンのあり方があります。アメリカの住宅価格は長年にわたり上昇し、とくに2000年以降バブル化してきました。それとともに所得の低い人にも家が買えるように、金融機関は、初めは低金利ですが、後に高利になるサブプライムローンを拡大してきました。

 米国民の購買力低下が全世界に

 アメリカ住宅ローンの特徴は、価格が上がれば、その分だけ銀行などがすぐに資金を貸してくれ、購買力も高まるのです。常に住宅価格が上がっていれば問題はないのですが、06年後半ごろから住宅価格が下落し始め、とうとう住宅ローンは破たんしてしまいました。その結果、国民の購買力も急激に低下し、それが世界経済にまで影響してきたのです。

 そして問題は、アメリカの金融機関が、この住宅ローンをもとに証券を作り、その証券を全世界にばらまいたことです。住宅価格下落のため、この証券も紙切れ同然となり、このため世界的な金融混乱が生じたのです。今回の危機は、経済と金融が一体化してあらわれた点に大きな特徴があり、その根はきわめて深いのです。

(つづく)

(新聞「農民」2008.10.13付)
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2008年10月

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