「農民」記事データベース20081006-847-06

投機マネーと農業・食糧(2)

中央大学名誉教授・商学博士 今宮 謙二


農産物さえも投機対象に

 投機マネーは推定50兆ドルほど

 いま投機マネーがどのくらいあるのか、正確にはわかりません。世界の金融資産は2006年当時、株式時価評価額、債券市場(国債、社債など)、預金残高など、いずれも約50兆ドルあるとみられ、総額は約150兆ドルとなります。世界の国民総生産額の3倍にものぼります。

 このうち投機マネーは推定50兆ドルぐらいとみられています。ヘッジファンドの運用資産額約2兆ドル、大国際金融機関の短期運用資産約20兆ドル、年金基金など機関投資家の運用資産額が約60兆ドルあります。これらの半分近くが投機マネーと推定されます。

 証券市場から商品市場へ投入

 投機マネーは短期間に巨額なもうけを得るために、少しでも損失となるような取引はやりません。今回のサブプライムローン危機から生じた世界的同時株安、金融混乱などで多くの投機マネーが証券市場から手を引きました。これまでならば、ここで仕事をやめ、借りた投機マネーを金融機関などに返すのですが、今回は違いました。その理由は2つあります。一つは日本のゼロ金利のように低金利であること、もう一つはもうけの対象となる商品市場があったからです。

 この商品市場が、原油、トウモロコシなどの穀物、食料品などだったのです。世界的な天候異常、アメリカのエネルギー戦略、中国など新興国による需要増大などで、投機家はこれらの商品の値上がりを見込んで、証券市場から商品市場へマネーを投げ込んだのです。

 市場規模からみて、原油は約2000億ドル、トウモロコシ、大豆、小麦市場は合計約1000億ドルですので、大量の投機マネー流入でアッと言う間に価格が暴騰したのです。この結果として、原油や食料価格高騰は、世界の人々の生活を脅かし、まじめに働いている農業、畜産業、漁業などの産業にも大打撃を与えています。

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 日常生活に賭博取引が入り込む

 いまや穀物、農畜産物、砂糖などすらも投機対象となり、金融商品となっているのです。人間生活と一体化している農産物などの商品が投機マネーの支配下に置かれているのは、あまりにも異常です。そしてこれらの金融商品を買うなかに、年金基金などもあることから、「これは投機ではなく投資である」と言い張る人は、明らかに日常生活のなかに賭博取引を認め、まじめに働いている人々に犠牲を押しつけているのです。
(つづく)

(新聞「農民」2008.10.6付)
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2008年10月

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