「農民」記事データベース20080929-846-06

投機マネーと農業・食糧(1)

中央大学名誉教授・商学博士 今宮 謙二

 投機マネーの暗躍が食料高騰の要因の1つになっており、その規制が緊急に求められています。金融問題に詳しい今宮謙二さん(中央大学名誉教授、商学博士)が、投機マネーの本質に迫り、その規制について解明します。連載は4回の予定です。


投機マネーとはなにか

画像 「投機」と「投資」の区別 は困難

 投機マネーを具体的に解説するのは、なかなか難しいことです。たとえば最近、世界的な原油、穀物、食料などの価格高騰の原因を、投機ではなく、年金基金などによる投資だと主張する人びとがいます。

 一般的に投機とは、株、通貨、土地、商品などの値上がりを見越して買い、値上がりすれば直ちに売り飛ばして利益を得る短期的な取引をさします。

 投資はそれと違って、株を買う場合には、その企業の発展に期待し、土地、商品などの購入も仕事や営業の必要のためにおこなうものとされています。つまりより安い時に、将来工場を建てるための土地を買い、同じく原材料品なども安い時に大量に手当てしておくというものです。

 このように、単なる定義では投機と投資の違いを説明できますが、現実的に両者をはっきりと区別するのは困難です。そもそも投機取引は、商品が作られた時代(紀元前)からおこなわれており、とくに資本主義社会が興ってきた16世紀ごろには、為替の先物取引として発達してきました。

 為替の先物取引あらゆる商品に

 為替の先物取引とは、それぞれの国における通貨の交換比率の変動リスクを避けようとする手段で、これをヘッジ取引といいます。たとえば、あらかじめ取引のおこなわれる3カ月先の交換比率を決めてしまうのです。そうすれば、いくら為替相場が変わってもその値段は固定されているので、リスクは負わないのです。

 資本主義が発展するにつれ、この取引が拡大し、あらゆる商品取引、とくに気候に左右される農産物関係などにあらわれてきました。

 戦前の日本をみても、米、生糸などの先物取引は有名です。このように投機取引は、ある意味では資本主義にとって価格調整の役割を果たしています。安い価格の時に買えば価格下落が阻止でき、高くなったときに売れば、それ以上の価格高騰がなくなるのです。

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世界の株式市場に影響を与えるニューヨーク証券取引所

 短期間にもうける賭博性もつ

 しかし、一方で投機取引は、投資と違って短期間にもうけをだす賭博性を持っています。そのために投機取引によって、一時的に特定商品や株などのバブルを生じさせ、そのための多くの人たちに損失を与えてきました。たとえば、17世紀のオランダでのチューリップ投機事件などが有名です。資本主義の発展とともに投機取引も拡大し、投機マネーを操る人びとや企業、日本でも相場師と言われる人たちもあらわれてきたのです。

 しかし、投機マネーの性格は20世紀になると大きく変わり始めます。大企業体制が確立し、資本蓄積も巨額となり、投機対象となる商品や株式市場なども巨大化し、投機マネーも大量に増えたためです。さらに通貨制度も大きく変わり、金本位制度ではなくなり、通貨供給も大企業の利益のためにより簡単におこなわれるようになりました。この時代になると、長期的に資産を運用する投資よりも、すぐにもうけが出る投機取引が日常化してきます。このような結果として大きな破たんとなったのが、1929年の大恐慌でした。

 グローバル化で自由化一段と

 アメリカでは、恐慌対策として、金融機関への監督を厳しくし、投機取引も規制されるようになりましたが、1980年代の新自由主義政策により再び投機取引が復活してきました。しかも単なる復活ではなく、より強化されてきたのです。その原因として大きく3つあげられます。

 第1は、市場原理主義、規制緩和、金融グローバル化で投機取引の自由化が一段と進み、それが全世界に広まるようになった点です。第2は、国際的な金融機関の合併などにより、巨大な国際的金融機関が生まれ、投機マネーを自由に操るようになりました。この手先となって、ヘッジファンドなどが投機取引の最先端にいるのです。第3は、高度な数学を利用した金融技術の展開とコンピューター開発のもとで、投機取引のもうけが確実だという神話をつくり上げてきたことです。

 昔の投機取引は、一部の専門家たちの間での取引にすぎなかったのが、今は全世界の、投機と関係のない人びとまで巻き込むほどに、大きな力を持つようになりました。投機マネーの暴走が私たちの国民生活を脅かすようになってきたのです。

(つづく)

(新聞「農民」2008.9.29付)
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2008年9月

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