農業・食料危機の現局面は?
農農研が研究例会開く
危機のなか、多国籍企業が超高利益
穀物価格高騰の要因ファンド資金の流入
農業・農協問題研究所は8月30日、都内で「農業・食料危機の現局面
」をテーマに64回目の研究例会を開き、研究者、農協職員らが参加しました。
開会あいさつした井上和衛理事長は、現政権が食料自給率50%への引き上げを目標にしていることにふれ、「歴代自民党政権の農政に何ら反省もなく、財界いいなりの構造改革路線を継続・強化しようとしている。いまの政府に本気で取り組む気があるのか。欺まん的なスローガンにすぎない。自給率向上への方策、農業再生プランを広く国民に訴えよう」と呼びかけました。
「世界の食料危機と打開の方向」のテーマで報告した京都大学大学院の久野秀二准教授は、食料問題が雑誌や新聞でセンセーショナルに取り上げられ、国民の食への関心が高まっていると述べたうえで、世界の食料需給構造がひっ迫状況にある下で食料価格高騰を招き、その要因も、(1)食料・肥料需要の急増(2)バイオ燃料向け需要の急増(3)主要生産・輸出国での小麦の不作(4)穀物在庫率の低下(5)投機資金の商品市場への流入―などさまざまな側面があることを解説。食品価格高騰が、途上国、食料輸入国などで飢餓とアグフレーション(農産物・食品価格が原因のインフレ)を引き起こす一方で、「穀物・肥料メジャーなどの多国籍アグリビジネスが空前の利益をあげている」と告発しました。
さらに食料危機にたいする国際社会のさまざまな対応を紹介し、その打開の方向として、食料問題を人権として扱うことを議論している「国連人権理事会」や、ビア・カンペシーナなどNGO、市民社会運動のグローバルな連帯への動きが注目されると述べました。
日本大学の早川治准教授は「畜産危機の現状と解決の道」をテーマに講演。世界穀物市場の高騰の要因に、ファンド資金の流入、バイオエタノールの増産、海上運賃の上昇などがあると指摘し、「それらが輸入飼料原料価格の未曽有の高騰を招いている」と述べました。
飼料高騰の結果は「生産コストの急騰、経営収支の悪化、消費者価格の上昇など畜産の困窮をもたらした」とし、その解決の道は「国産自給飼料の確保、高付加価値と値ごろ感のある畜産物のブランド化、消費者の食生活の見直しなどに求められる」と強調しました。
最後に、報告した2氏が質問に答え、参加者と意見交換しました。
(新聞「農民」2008.9.22付)
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