「農民」記事データベース20080901-842-09

「農」に生きる人たちの暮らし描く

映画「空想の森」監督 田代陽子さん

 一人の新人監督が、農村の日常を描いた映画を発表しました。監督は田代陽子さん、映画のタイトルは『空想の森』。スクリーンには、「農」に生きる人たちの暮らしが美しく映し出されます。


 北海道に移住した二組の夫婦の物語

 舞台は、北海道の中央部に位置する新得(しんとく)町。道外からやってきてここに根を下ろした二組の夫婦が主人公です。

 宮下喜夫さん・文代さん夫妻は、「食べ物を自分でつくって暮らしたい」と関西から移り住んで三十年。無農薬の野菜作りに手探りで取り組みながら、三人の子どもたちを独立させました。

 山田憲一さん・聡美さん夫妻は、新得共働学舎(心身に悩みを抱えた人たちと共に働く農場)で出会い結婚。憲一さんは近くの牧場に勤め、聡美さんは、ようやく一歳になろうという娘、あかりちゃんを連れて「学舎」の野菜畑に出ます。家族の将来を模索する毎日です。

 映画は彼らの一年を追って進みますが、大きな事件は何も起こりません。日々の暮らしが淡々と進んでいくだけです。けれど、その中から「貧乏だけど、食べるものがいっぱいあって幸せ」「貯金はないけど薪はいっぱいある」という彼らの生き方が、自然に伝わってきます。

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映画の1シーン。野菜畑の山田さん母娘

 表現したかったのは食べ物の大切さと…

画像 東京生まれの田代さんは、学生時代にカナダで生活したことがあり、帰国後は「狭い東京ではとても暮らせないと思って」北海道に移り住みます。九六年に新得町の山あいの集落で開かれた「空想の森映画祭」をたまたま見に行って、ドキュメント映画のおもしろさに魅せられました。と同時に、「そこに集まっている地元の人たちがとにかく楽しそうだった」という強い印象が、田代さんを新得に呼び寄せました。

 映画祭の仕掛け人である藤本幸久監督に誘われた田代さんは、映画についての特別な知識も、作品のシナリオもないまま、映画祭で出会った人たちを被写体にして撮影を開始します。しかし、スタッフの間での意見の相違や資金難から、完成までに七年の月日を要しました。

 「特にテーマがあったわけではなく、自分の生活している世界を撮っていただけ」。表現したかったのは「食べ物の大切さと、それを作っている人たちの暮らしの豊かさ」だといいます。

 厳しい中でも農業選んだ人を尊敬

 「食料自給率は本来一〇〇%であるべきだ」という田代さん。農業の現状には危機感を持っています。「グローバルなんて全然よくない。いいものを作るには手間と時間がかかるんです。競争するよりそれが大事です」。農家の経営の厳しさは十分に承知した上で、「それでもその道を選ぶ人たちを尊敬します。これからもそういう人たちとつながって生きていきたい」と語ってくれました。

 全国どこへでも上映に出かける

 「空想の森」は東京・ポレポレ東中野で好評上映中。秋からは大阪での劇場公開のほか、各種映画祭でも上映が予定されています。また、広く自主上映を呼びかけています。田代監督自ら、全国どこへでも出かけるそうです。


〈上映予定〉

 9月5日まで、ポレポレ東中野(東京都中野区)
 9月6日「あいち国際女性映画祭(名古屋市「ウィルあいち」)
 9月14日 空想の森映画祭(北海道新得町)
 今秋予定 第七藝術劇場(大阪市淀川区)

 上映予定、自主上映の問い合わせ先
 空想の森上映委員会 TEL 090(9084)2058

(新聞「農民」2008.9.1付)
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2008年9月

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