どうなっているの? 日本の水産業 =1=
島国日本で自給率わずか59%
21世紀の水産を考える会は、一九八二年の発足以来、米と魚と野菜が一つになった日本の食文化を考えるたびに、農業と水産業の連携を感じてきました。そして水産業は、農林業とともに地域経済の柱であり、地域経済の復興と地方自治確立の中心課題でもあります。
ところが、四海を優良な漁場に恵まれた日本の食用魚介類の自給率は五九%で、年々輸入量が増大。そして「赤字で漁に出られない!」と燃油高による全国一斉休漁――いま、日本の水産業はどうなっているのでしょうか。
これから日本の水産業の課題(生産、流通・加工、販売、魚食文化・栄養など)を何回かに分けて連載し、農業関係者をはじめ自治体関係者などへの水産業の正確な理解を広げ、今後の運動の発展の道を進みたいと思っています。
「日本国民への呼びかけ」を発表
私たちは二〇〇一年一月の総会時に、「日本の水産業の発展は国民すべての協力が必要」と考え、「日本国民への呼びかけ」
(別項)を決めました。これは、現在の食糧問題を十年前に見通し、食糧主権の確立と地球温暖化対策、そして日本の食文化の維持発展を呼びかけたものであり、私たちの活動の原点です。
食文化を守る水産業の確立を
水産業が農業に比べて一番違うところは、多額の資本を投じてもうけ本位による、いわば資本制生産の割合が高いことです。水産業には、漁業や流通
、加工、小売りの四つの部門があり、それぞれの部門が順調に回転することによって安定供給がはかられます。どこかの歯車が早くなったり遅くなったりしても、全体に支障をきたします。これは、水産物は鮮度が重視されること、百種以上にも及ぶ季節感に富んだ魚種と多くの加工品があり、これらを瞬時に処理するためには四つの部門の分業がどうしても必要なわけです。
しかし、戦後を振り返ってみると、その技術変化は著しく、その矛盾は特に国内の水産業者に大きな負担となっているのです。七月十五日に行われた全国一斉休業による燃油高への抗議は、いよいよ追い込まれた漁業者の最後の叫び声でした。しかし、全国漁民大会の壇上は百人以上の自民党国会議員のみで、国民全体での“食糧問題が重大な危機である”との認識は、水産関係者には見られません。さらに、自分たちだけが燃油補助金を得ることのみ要求し、自分勝手な従来の政治手法の延長としか見えません。
このような運動の方向ではなく、私たちの「呼びかけ」にあるように、食糧主権に立脚した水産業、日本の食文化を守る水産業の確立を目標にした国民的な大運動が必要だと、つねづね考えていす。
(21世紀の水産を考える会・代表理事 山本浩一)
(つづく)
「21世紀の水産を考える会」とは…現在の会員数は約三百人で、水産業界では唯一かつ最大の市民団体。水産業の生産から消費までをテーマに、毎年、各地でフォーラムを開催し、国内・海外の視察を実施。二〇〇〇年までに十冊の政策提言などを盛り込んだ単行本を出版し、それ以降は季刊誌「日本人とさかな」を発行。日本の水産業の健全な発展を希望する漁業者や流通・加工業者、研究者など主に個人が参加し、政策提言してきた問題についての運動の展開を訴えています。最近、全国食健連への加入を決定しました。
日本国民への呼びかけ
21世紀は、世界的に食料が不足すると言われています。それでも、日本人は世界から魚を買いあさるのでしょうか。世界一の資源豊かな海に囲まれ、世界一の漁業技術や魚食の伝統を持つ日本人が、それで良いわけがありません。先進国として世界の食料不足に貢献するためにも、自給できるものは自給しようではありませんか。そのためにも日本漁業を回復発展させましょう。
21世紀は、地球のいたるところで環境破壊が心配されています。青い海と空を守ることが、人類共通の責務です。地球温暖化や沿岸域埋め立ては、直接水産資源を減らしています。物質循環の障害は赤潮などの原因となり、化学製品の廃棄物がダイオキシンやPCB汚染につながっています。安全な水産物が安定的に自給できる日本と地球をめざしましょう。
日本では縄文の昔から、漁業と魚食の伝統が根付いてきました。それが日本人の栄養と健康、そして世界一の長寿を支えてきました。いまの日本人の食生活が世界中から注目され、世界の何処(どこ)でも魚食が伸びています。魚食と水産業を日本の伝統文化として一層発展させましょう。
21世紀が平和で豊かな人類発展の世紀になることをめざして、私たちはそれを水産と魚食の分野から追い求めます。国民のみなさんがこの運動に共感し参加されることを、心から呼びかけます。
(新聞「農民」2008.9.1付)
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