「農民」記事データベース20080811-840-02

WTO流自由貿易原理主義
の時代は終わった、今こそ
食糧主権実現の時だ

二〇〇八年七月三十日 農民運動全国連合会


 、七月二十一日から行われていたWTOの密室交渉は二十九日に決裂した。この結果、今後数年間交渉が宙に浮くことや、「ラウンドそのものが崩壊する」ことが取りざたされている。「悪い合意はない方がよい」のであって、私たちはこの決裂を歓迎する。

 、WTO交渉は一九九九年シアトル、二〇〇三年カンクン、二〇〇五年香港で開かれた閣僚会議がいずれも決裂し、「閣僚会議なしの閣僚会議」と呼ばれた二〇〇六年の非公式閣僚会議も決裂した。WTOは一九九五年の成立以来、決裂と破たんの歴史を繰り返してきたが、これは多国籍企業主導の新自由主義的グローバリゼーション推進機関であるWTOの下で、世界中の食糧供給基盤が壊され、飢餓と貧困が拡大してきたことからいって、当然の結果である。

 、妥結が模索された最終合意案の内容は、米をはじめ小麦、乳製品、砂糖、でん粉などの基幹作物やコンニャクなどの地域基幹作物の関税大幅引き下げと自由化を強要するものであり、日本農業を壊滅させる危険性をもっていた。さらに、最大五十万トンのミニマム・アクセス米輸入を拡大するなど、世界的な食糧危機に拍車をかける危険性をもっていた。

 それにもかかわらず、日本政府は「国際的孤立を避ける」ことを理由に、最終合意案受け入れの白旗を揚げた。私たちは、これを強く糾弾する。読売(七月二十一日)が「日本にとって今回の交渉は、農業分野では国内農業への影響を避けるためにコメなどの関税の引き下げを極力抑える『守り』を強いられる反面、自動車や電化製品などの鉱工業分野では途上国に関税引き下げを迫る『攻め』が主体となる。(農水・経産)両大臣の発言は、この『二面性』を浮き彫りにした」と報じたが、結局、日本政府は工業の利益を守る道を選んだ。それは若林農相が、重要品目四%というWTO事務局長提案に対し「非常に不満があるわけではない」と述べたことや(日経七月二十七日)、同提案を「交渉のベースとして受け入れる」と表明したことにあらわれている。

 、WTOの原理は“世界はすでに十分な食糧を生産している”と言う前提に立って、効率的に生産できる国で生産し“非効率”な国の農業はつぶれた方が望ましいという「自由貿易」の原理である。しかし「お金さえ出せば、いくらでも食糧を買える」時代は終わったのであって、こういう時代遅れの原理にしがみついて進められているWTO交渉を何度繰り返しても成功するはずはない。

 二〇〇六年の決裂以来、「WTOは死んだわけではないが、集中治療室と火葬場の間にいる」(インドのWTO担当閣僚)という漂流を続けてきた。この言葉を借りれば、今回の決裂によって、WTOは「火葬場」に近づいたことになる。このままでは、WTOは氷河期末期の気候変動に伴って絶滅したマンモスと同じ運命をたどり、文字通り「化石」になる可能性があるし、また、ぜひそうさせなければならない。

 、日本の大手マスコミからは「自由貿易体制の危機」「外圧失い改革失速」という雑音も聞こえてくる。しかし、WTO流自由貿易原理主義の時代は終わったのであって、食糧危機、地球温暖化という人類的課題を解決するために不可欠な対案である食糧主権にもとづく農業・貿易ルールこそが確立されなければならない。私たちはそのために全力をあげる。

(新聞「農民」2008.8.11付)
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2008年8月

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