食糧サミット不発に終わったバイオ燃料・投機規制
六月三日から五日まで、ローマのFAO(国連食糧農業機関)本部で食糧サミットが開かれました。国連事務総長が四月下旬に開催を呼びかけたサミットには、食糧危機の深刻さを反映し、四十三カ国の首脳を含む百八十カ国が参加。 ディウフFAO事務局長は、サミット開会式で「われわれの前には、世界の平和と安全保障を脅かすことになりかねない世界食糧危機が存在する」と述べ、「今は行動の時だ」と呼びかけました。しかしサミットは、現在の食糧危機を打開する道筋を示したとはとうていいえない結果に終わりました。 サミットに求められていたのは「穀物は人間のためのものであって、自動車のためではない」(エジプト・ムバラク大統領)という批判が集中したバイオ燃料と、サブプライムローンの破綻以降、原油と穀物に向かっている投機マネーに対する規制でした。
アメリカの妨害サミットで目立ったのはアメリカの妨害でした。ブッシュ大統領のかわりに出席したシェーファー農務長官は「バイオ燃料増産は食糧高騰の数多くの原因の一つにすぎない」「バイオ燃料を原因とする価格上昇は二〜三%程度だ」と強弁し、バイオ燃料に対する国際的規制を拒否しつづけました。 しかし、ワシントンに本部を置く「国際食料政策研究所」は、二〇〇〇年から〇七年にかけての穀物価格上昇のうちバイオ燃料の影響によるものがトウモロコシで三九%、小麦で二二%に及ぶという研究結果を公表し、アメリカ政府の強弁を打ち消しました。 それにもかかわらずサミットの宣言は、国際的な規制指針を設けるとしていた当初案から後退し、「バイオ燃料生産が持続的であることを保証するための徹底的な調査研究」を行うことを合意するにとどまりました。
投機規制には触れずサミットでもう一つ焦点になったのは、各国が実施している農産物の輸出規制を抑えることでした。しかし、これは逆立ちした議論です。自国の国民を飢えさせてまで、あるいは国内の食品価格の高騰を抑えずに、食糧を輸出しろと言う方が無理なのであって、アルゼンチンなどから強い反発を呼びました。現在の異常な価格高騰を抑えるために必要なのは、ディウフFAO事務局長が「先物市場への投機が世界を危険な状況に追い込むだろう」と強調した投機に対する規制でした。 イギリスのヘッジファンド幹部が「現在の食糧危機を考慮すれば、食糧価格は変動が大きく不安定なので、ヘッジファンドにとっては素晴らしい投資先であり、利益をあげられることは目に見えている」と公言し、アメリカ最大の穀物メジャー・ADM社の今年一〜三月期の穀物販売部門の利益が前年の八倍、カーギル社が二倍という巨利をあげているのですから、当然です。 しかし、サミットの宣言は、この問題には一言も触れずじまいでした。
すべての国に増産を呼びかけ食糧サミットの宣言で注目していいのは「各国の農業生産の強化のために必要なあらゆる手段を講じる」としたことです。過大評価はできませんが、「自由化一辺倒の流れを変える布石」(農水省幹部)になる可能性があるし、またそうしなければなりません。同時に、この宣言の意義を打ち消す逆流も存在します。一つは、宣言に「農業分野での貿易自由化の努力の継続」「WTO交渉の早期妥結」が盛り込まれたことです。 もう一つは、食料自給率の向上を国際的に公約したはずの福田首相自身が宣言をゆがめ、食糧増産を「飢餓にあえいでいる国」の課題にすりかえ、日本での食糧増産をあいまいにしていることです(参議院決算委員会、六月九日)。
ビア・カンペシーナ代表が閉会総会で発言六月一日に東京で開かれた「温暖化・食糧問題と食糧主権」フォーラムに出席してローマに急行したヘンリー・サラギ氏(世界的な農民運動組織・ビア・カンペシーナの国際代表)はサミット閉会会議で、NGOを代表して次のように発言しました。「われわれは飢餓を撲滅できないことへの恥と罪悪感を持つべきだ。これまで各国政府と国際機関が実施してきた政策が間違っていたことを認め、転換しなければならない」。(真嶋良孝)
(新聞「農民」2008.6.30付)
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[2008年6月]
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