“出産祝い”“縁起いい”注文殺到
コウノトリ育む米
野生復帰、“安全・安心・おいしい米作り”
絶滅した野生コウノトリの再生をめざす兵庫県豊岡市はいま、田植えを終え、本格的な米作りシーズンを迎えます。豊岡市の米を販売する秋田市のお米屋さんが産地を訪れ、市長や米農家と懇談しました。
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コウノトリ(画像提供・豊岡市)
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秋田のお米屋さん 産地豊岡市へ
市長・米作農家と懇談
人と環境にやさしい米づくり
コウノトリが人と共生している水田。かつては日本のどこでも目にできた田園風景でした。しかし、えさとなる田んぼの生きものの減少により、生息数も激減。ついに一九七一年、豊岡市の一羽を最後に日本の田園から姿を消してしまいました。その後、人工繁殖や野生復帰の取り組みが始まり、現在、飼育数は約百羽、野外で生息しているものは約二十羽にまで回復しました。
コウノトリ野生復帰の取り組みの一環として、人と環境にやさしい米作りの努力が始められました。それが「コウノトリ育(はぐく)む農法」(以下「育む農法」)です。農薬や化学肥料の削減にとどまらず、安全で安心なおいしいお米と生きものを同時にはぐくむことで、コウノトリもすめる豊かな文化、地域、環境作りをめざします。
こうして作られたお米を、秋田市のお米屋さん、山王米穀と本田商店が共同して「コウノトリが育む天使のほほえみ米」の商品名で、赤ちゃんの出産祝いのお返し用として、赤ちゃんの体重と同じ重さで販売しています。
赤ちゃんを運んでくるという縁起のいいコウノトリ伝説から、出産祝いで販売することを思いついたのは、本田商店の本田正博店長(34)。仕入れと精米は山王米穀、受注と販売は本田商店と役割も分担しました。
かつてコンピューター会社で勤務していた経歴をもつ本田さん。自らホームページを作成し、今年の一月から、インターネットを通じて販売を開始。ホームページ開設早々、北は北海道から、南は沖縄まで、全国から連日のように注文が相次いでいます。
市長 豊岡の米多く食べてもらえば 米屋 販売順調、生産ふやして
この米をPRしファンを増やす
本田さんと山王米穀の米村徹営業部長(33)は五月十四日、豊岡市を訪問。兵庫農民連の永井脩会長も同行して、米生産者、田中定さん(50)を訪ね、懇談しました。田中さんは、育む農法に取り組む豊岡エコファーマーズのメンバーで、農民連の会員です。
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中貝・豊岡市長(左)に寄付
金を手渡す本田さんと米村さん。
右は永井会長
=5月15日、豊岡市役所
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田中さんは、試行錯誤しながら取り組んでいる「育む農法」について説明。「田んぼの管理は大変ですが、仲間同士助け合っています。生きものが増えるにつれて、田んぼに行く楽しみができました」と語りました。
米村さんは「生産の大変さを消費者に知ってもらうことも大事。それを伝えるのが私たちの役目です」と述べ、本田さんは「お客さんから『味がよい。おいしい』と評判です」と激励しました。田中さんは「農家にとって『おいしい』と言ってもらうのが、最大の励みになります。取り組みをさらに広げていきたい」と笑顔で応じました。
翌十五日は、市役所を訪れ、中貝宗治市長と懇談。本田さん、米村さんは「コウノトリ米の販売も順調で、足りていない状況です。もっと生産量を増やしてほしい。食の安全が注目されるときだからこそ、このお米をPRし、コウノトリのファンを増やしたいのです」と要望しました。
中貝市長は「豊岡の米を食べてもらうことは、コウノトリを支え、野生復帰計画を応援してもらうことになります。期待に応えられるよう育む農法を推進していきたい」と答えました。
本田さんと米村さんは、売り上げの一部を市のコウノトリ基金に寄付し、市長に手渡しました。
兵庫農民連の永井会長は「環境に配慮した生産の取り組みや、米の販路の確保を、農民連としてさらに応援していきたい」と話しています。
豊岡市では現在、八羽のコウノトリのヒナが巣立ちを待っています。コウノトリの野生復帰と米豊作の夢をのせて、羽ばたこうとしています。
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豊岡エコファーマーズの田中さん(左手前)、根岸謙次さん(38)=右=から作付け前の苗の説明を受ける(左から)永井さん、米村さん、本田さん=5月14日 |
(新聞「農民」2008.6.9付)
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