農民連
G8洞爺湖サミット対抗行動の呼びかけ
―地球温暖化にストップを 食糧主権の確立を
農民連は、七月に開かれるG8洞爺湖サミットに向けて、「G8洞爺湖サミット対抗行動の呼びかけ―地球温暖化にストップを、食糧主権の確立を」を発表しました。その全文を掲載します。
地球温暖化は将来の問題ではなく、遠い国の話でもない
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雨不足で干上がるアフリカ・サヘル地域の沼。
この地域では雨不足は飢饉に直結している |
七月に開かれる主要国首脳会議(G8サミット)の中心課題は地球温暖化問題です。
朝日新聞(〇八年一月七日)の世論調査によると、地球温暖化の影響を心配している人が九二%、政府の取り組みが「熱心ではない」と評価する人が八〇%、さらに「選挙で環境問題を考慮する」人が七四%にのぼっています。
温暖化の影響は遠い将来の問題ではなく、少なくとも農産物ではもう始まっています。たとえば農水省は、ここ数年続いている九州北部、とくに佐賀県の米収量減を「温暖化の影響が顕在化しはじめている」と断定しました。果樹に対する着色・発芽不良などの影響も深刻です。
温暖化の打撃は地球上のどこか遠い国の話ではありません。海面上昇によって、東京湾・伊勢湾・大阪湾では海抜ゼロメートル地帯が増え、影響を受ける人口は約六百万人に達すると予測されています。真夏日が百二十日にも及び、熱帯型の豪雨が激増する、台風が強大になるなどの影響が予想されています。南東北から関東、北陸、中四国では、収量が半分から三分の二近くに激減し、日本近海からサケが姿を消すと警告されています。
しかし日本政府は、法的拘束力のある温室効果ガス削減目標を決めるのではなく、産業別「自主目標」の積み上げ方式に固執し続けています。これでは、地球温暖化にストップをかけることはできません。「日本案は排出削減に抵抗する国内産業界に気兼ねして低い削減目標で言い逃れしようとする姿勢ばかり目立つ……EUからも途上国からも見放されて当然だ」(日経「社説」〇八年四月六日付)と批判されるのも当然です。
「金さえ出せば、いくらでも食糧を買える」時代ではない
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バングラデシュの米騒動 |
日本政府はアメリカ・カナダ両国政府とならんで、地球温暖化対策「妨害三人組」といわれていますが、農業・食糧の側面
からみると、日本政府は三人組の頭目といってもいいほど異常な政策をとっています。
日本は食糧(カロリー)の六一%、穀物の七三%を輸入に依存し、大量の石油を浪費して農産物を輸入しています。日本の食糧輸入総量は五八四七万トン、平均輸送距離は一万五三九六キロメートルにおよびます。この二つを掛け合わせたものを「フードマイレージ」と呼びますが、日本のフードマイレージは、韓国、アメリカのほぼ三倍、ヨーロッパ諸国の五〜九倍です。しかも政府と財界は、完全自由化を進め、さらに自給率低下と輸入依存を強めようとしています。
農水省は、日本が完全に輸入を自由化すれば、カロリー自給率が一二%、穀物自給率は二・七%に落ち込み、小麦の生産は壊滅、米もわずか一〇%しか残らないという悲惨な試算を公表しています。ところが、政府の“参謀本部”というべき経済財政諮問会議では「国内生産がけっこう残るじゃないか。日本にほとんど農業がなくなるが、それでもかまわない」という日本を“無農”国家にする議論が横行しています。これは地球温暖化防止と食糧主権の確立に完全に逆行するものといわなければなりません。
しかも、いま「新たな飢餓」(ジョゼット・シーラン世界食糧計画事務局長)が発生しています。気候変動による減収やバイオ燃料への農産物の投入、投機資本の暗躍などを原因とする食糧価格の異常な暴騰が、低所得食糧不足国を直撃し「かつては一日三食とれた家庭でも二食か一食に減らさざるをえなくなった」(パン・ギムン国連事務総長)という悲惨な状況が生まれているのです。世界人口のわずか二%を占めるにすぎない日本が、貿易に出回る食糧のうち一〇%を買いあさるというやり方、不必要な米を輸入し続けて食糧不足国の米を奪うというやり方は、もう通用しません。「金さえ出せば、いくらでも食糧を買える」時代ではないのです。
食の「質」の問題では、農薬入りギョーザ事件が日本国民に強い不安をあたえています。アジアからの農産物の「開発輸入」は、日本政府の直接・間接の支援によって進められてきました。これも地球温暖化問題と食糧主権に密接に関連しています。ギョーザを含む冷凍調理食品を運ぶコンテナ船のCO2発生率はバラ積みの穀物運搬船の約四倍といわれ、そのうえ工場の倉庫からトラック、船、そして日本国内の運搬から倉庫にいたるまでマイナス一八度の冷凍が必要です。化石燃料と電力と農薬の塊といってもよいでしょう。これは、生命の危険につながりかねない食品を供給することによって日本国民の食糧主権をそこなうものであり、依然として膨大な飢餓人口をかかえる国から大量の食糧を輸入することによって、輸出国の人々の食糧主権をそこなうものです。
私たちは求めます
私たちは飢餓と食の不安、地球温暖化の進行という恐怖の連鎖からの脱却を強く求めます。そのために次の政策の実施を求め、G8サミット対抗行動に立ち上がります。
(1) 大企業に気兼ねして“やれるところまでやればいい”というやり方を根本的に転換すること。そのため、京都議定書目標の達成と、「二〇二〇年に先進国が九〇年比で二五〜四〇%削減する」という国際社会の合意実現の先頭に立つとともに、G8サミットで再確認すること。
(2) 「新たな飢餓」対策を首脳会議の議題とし、緊急の人道的援助とともに、バイオ燃料への穀物の使用の停止、投機資本の暗躍に対する国際的規制などの措置を実施すること。WTOとFTA・EPAによる完全自由化路線に固執するのをやめ、輸入国・輸出国双方の食糧主権を保障する貿易ルールと農業政策を確立すること。
食糧主権は、すべての人々が安全で栄養豊かな食糧を得る権利であり、こういう食糧を家族経営・小農が環境に配慮し持続可能なやり方で生産する権利です。食糧主権に裏打ちされた農業こそが地球を冷却化し、温暖化による危機から地球と人類を救います。それは、八億五千万人を超え、さらに増え続けている飢餓・栄養不良を解消し、三十億人を超えると予測されている水飢饉を抑制するでしょう。
私たちは、地球と人類の存続のために、地域レベル・国レベル・世界レベルの連帯と運動を強め、食糧主権の実現と抜本的な地球温暖化防止対策の実施を求めてたたかいます。その第一歩として、G8洞爺湖サミット対抗行動にあなたの参加を呼びかけます。
(新聞「農民」2008.5.19付)
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