シリーズ 地球温暖化
農家が肌身で感じる高温障害
――果樹・野菜栽培にみる―
「地球温暖化は農業ではもう始っている」――農水省は昨年、農業への高温障害の調査を行い、「水稲の高温障害、果樹の着色不良、病害虫などが多発しており、温暖化が影響している可能性が高い」との結果を出しました。農家は温暖化を誰よりも肌身で感じています。悪影響が最も深刻だといわれる果樹を中心に、各地の農家に話を聞きました。
みかん
焼け果、浮き皮加工用にしか…
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(農水省のホームページから)
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「もともと価格が暴落していたところに、温暖化の影響で品質が落ちて加工用ばかりになってしまった。柑橘農家はみんな、本当に元気をなくしている」――愛媛県松山市の柑橘(かんきつ)農家、大早稔さんは、悲痛な声でこう言います。昨年の夏から秋にかけて、愛媛県の柑橘産地は猛暑と干ばつに見舞われました。ところが十二月末、急に冷え込み、ポンカン、伊予柑などに皮が焼ける“焼け果
”という現象が多発(写真)。八割が加工用にしかならず、生食用なら一キロあたり百五十〜二百五十円で出荷できるところ、よくて五十〜六十円、ジュース用はなんと五〜六円まで暴落しました。
「五〜六年前から夏は猛暑、冬は暖冬で、だんだん気候が変わってきたとは思っていた。でも焼け果がこんなにひどかったのは初めてだ」と大早さんは言います。
柑橘農家の苦労は焼け果だけではありません。秋、暖かい雨にあたると実から皮が浮く“浮き皮”現象や、台風が年々大きくなっていることから、塩に当たって果樹が枯れてしまう塩害も深刻さを増しています。「塩害を受ける畑は決まっていて、ミカンを作り続けるのを断念した農家もいる」と大早さん。
「営農指導ではより温暖化に合った品種を推奨されるが、柑橘は植えてから収穫まで七〜八年かかり、高齢化した農家には切り替えはとても難しい。売り先が産直だと作る苦労や価格を消費者に相談できるから、なんとか作り続けられる」
ピオーネ
色づき悪くなり価格は半値以下
「ピオーネを作り始めて二十三年たつが、ここ五〜六年、徐々に色づきが悪くなった。特に一昨年は最悪で、これが三年続いたら、ピオーネ作りをやめるしかないと思った」――こう話すのは、岡山県岡山市内でピオーネを栽培する小坂勝さん。
ピオーネの色づきは昼と夜の温度差が決め手です。ところが夜が暖かく、実が黒く色づきません。味は酸味がしっかり抜けてなかなか良いのに、市場に出荷したら値段は半分以下になってしまいます。
「ピオーネは手間がかからず、高齢者に作りやすい品種で、過疎対策にも大切な品種。温暖化は地域の問題でもある」と小坂さん。「明日、集落で栽培技術の講習会を開くんです。年によって色づきの程度が違うのが難しいところ。農家はみんな、なんとか乗り切ろうと必死です」
リンゴ
産地競合で暴落品質保全に不安
リンゴも温暖化によって色づきが悪くなると、農水省のリポートで指摘されています。「たしかにジワジワと作りにくくなってきた。色づきを待っていると、実が柔らかくなってしまう」と言うのは長野県飯田市のリンゴ農家の松村隆平さん。しかし松村さんは続けます。「でも温暖化でもっと困るのは、価格の暴落。青森県などの北の産地の出荷が早まって、お歳暮まで一人勝ち市場だった長野県産と競合するようになってしまった」
青森県弘前市のリンゴ農家の長谷川利勝さん、小山恵司さんは「ここ二〜三年温度が高くなって、開花が早くなったし、実も柔らかくなった。色付き障害はまだそれほどではないが、温暖化が進んだら、いつまでこの品質を保てるか心配だ」と言います。「でも色付きより、台風が大きくなっていることや、雪質が重くなってリンゴの枝が折れやすくなっていることの方が不安は大きい」
“温暖化に負けず野菜を必ず消費者に届けたい”
新潟県新潟市でハウス野菜を作る渡辺久子さんも温暖化を切実に感じている農家の一人です。ここ二〜三年、秋になると高温・多雨が続き、商品価値のない、水ぶくれしたキュウリができるようになってしまいました。トマトも四十年間続けてきた自根栽培をやめ、昨年初めて高温に強い台木に接ぎ木栽培しました。「農民連の仲間とも“自然がおかしい”って話になる。でもグチってばかりいても始らない。野菜を待っていてくれる消費者がいるし、なんとか工夫して収穫までこぎつけなくちゃ」と、たくましい渡辺さん。
農家にとって「地球温暖化」とは、単に「ある作物が作れない、作りにくくなる」というだけでなく、その影響は価格、地域、販売など多岐にわたります。
次回は水稲や病害虫などへの影響を考えます。
(新聞「農民」2008.4.28付)
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