米・減反特集
“過剰”理由に強制減反
本当にあり余っているか?
過剰どころか…
消費量より22万トン不足の在庫
農水省は“過剰”を理由に、新たに十万ヘクタールにもおよぶ強制減反を推し進めていますが、本当に米は過剰なのでしょうか。
日本の米の期末は十月末です。十月末に前年作までの米がどれだけ繰り越されたかが指標になります。しかし政府は二〇〇四年、需給計画の起点を六月末に変えてしまい、十月末の在庫の公表を拒否しています。唯一公表される六月末在庫は、〇七年でいえば政府備蓄、流通在庫、産地の在庫すべてを合計して二百六十一万トン。これを国民の消費量(〇七年は八百三十三万トン)から計算すれば期末在庫はなんとマイナス二十二万トンです。ここ数年、マイナス状態が続いています。
政府備蓄米が一〇〇万トンもあるのに、なぜマイナスなのか。それは「繰り越し用の大きな倉庫に、政府と民間が米を積んでいる」と考えればわかりやすいでしょう。つまり、政府が備蓄を増やせば民間の在庫がその分少なくなるというわけです。倉庫全体の在庫がどれだけあるかが問題なのです。マイナス状態にもかかわらず米不足が表面化しないのは、幸いにも平年作が続き、九月ころから新米を“早食い”でつないでいるからにほかなりません。
〇六年産は、わずか二十一万トンの過剰で米価は大暴落しました。米価下落の真の原因は、過剰作付けではありません。政府が米の管理責任を放棄し、市場まかせにした政策にあります。
強制減反
推進もやり方も“異常ずくめ”
青刈り、水張り減反も復活
二重三重に網張って作付け抑制
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「水張り減反」の田んぼ。これも“緊急一時金”の対象にして米減らしを強制
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いま推し進められている強制減反は、まさに“異常ずくめ”です。生産者団体ばかりか、米の流通
・販売の団体を含めて「可能なあらゆる措置を講ずる」との“血判状”=合意書を取り付けたうえに、生産目標量
八百十五万トンを超えて一粒たりとも作らせないという方針で、昔の「減反時代」に“先祖返り”。地域に対しては産地づくり交付金の減額や補助事業の不採択、個人に対しても制度融資の利子補給打ち切りや残金の繰上償還など、あらゆるペナルティー措置を掲げています。いったい“作る自由、売る自由”はどこにいってしまったのでしょうか。
さらに、微に入り細にうがった強制減反のやり方もまた“異常”です。播種(はしゅ)前に減反面積を農家ごとに徹底し、作付け段階で過剰があれば青刈り、そして収穫段階では過剰な米は主食以外に処理するなど、二重、三重に網を張って作付けを抑制。さらに米の検査機関に協力を求め、米業界には「マル適マーク」を付与して生産調整協力者の米だけの扱いを求めることまで検討しています。「米改革」の失敗をおおいかくし“過剰作付け”に名を借りて農家に責任を転嫁する米減らし政策は、いい加減にやめるべきです。
世界は増産と安定供給が大問題
今回の対策の目玉は、新たな減反分に支払われる「緊急一時金」で、(1)五年契約で転作を拡大する分に十アール当たり五万円(〇七年で生産調整未実施者には三万円)、(2)三年契約でエサ米等主食以外の作付け分に十アール当たり五万円を支給するというもの。五百億円を計上しましたが、〇七年度補正予算のため、三月中に都道府県には概算で支払い済みです。行政も農協中央会も、(2)の主食以外の対策に重きを置いていますが、五万円は“減反への踏み切り料”と呼ばれ、現場ではきわめて評判が悪く対策は進んでいません。農水省は改めて減反目標の実効性確保を指示し、田んぼに水を張るだけでも米さえ作らなければ緊急一時金の対象にすると、公式に通達しました。
日増しに深刻化する世界の食糧不足のなかで、食糧の増産と安定供給が大問題になっているときに、農家の作る意欲を奪い、米作りから撤退をさせる強制減反は直ちにやめ、政府の責任でほかの作物へ誘導し、食料自給率の向上を図るべきです。
備蓄は国民の“貴重な財産”
仮に計画を上回る米ができた際にはしっかり備蓄し、米価が下がらないように処置すべきです。ゆとりある備蓄米は、いまや“お荷物”ではなく国民の“貴重な財産”です。大量の備蓄米は外交上も、援助用などに重要な役割を果たすことになるでしょう。
緊急一時金が“離農促進費”に
青森県蓬田(よもぎだ)村では「米価が安すぎて赤字だ。米づくりをやめることにした」と、緊急一時金に手をあげる農家が続出。地元の農家、松本武秋さん(49)は「減反目標面積を超過達成してしまったので、役場では急きょ『復田』による増産を呼びかけたが、ほかの市町村間での調整もできず、消化できないで困っている」と話します。
米消費拡大にこそ予算をまわせ
「小麦高騰、やっぱり米!」―小麦価格の高騰でパンやめん類、食料品が値上がりし、ごはんや米粉を使った加工品など、米への注目が広がっています。
農林漁業金融公庫の調査では、三人に一人がパンやめん類にかえて「米飯を増やす」と回答。山形県では、米の消費拡大を図ろうと、小中学校で米飯給食を増やすための助成制度を創設。米飯給食の回数を県平均で週三・八回にして“日本一”を目標に掲げました。また、千葉県袖ヶ浦市では、すべての小中学校の学校給食で、地元産米で作った米粉を調理した米粉パンやシチューを試食しています。こうした動きに、文部科学省も米飯給食の回数引き上げを言い出しました。
米飯給食を一回増やせば二・五万トン、国民一億人が週一回お茶わん一杯おかわりすれば、三十四万トンの消費拡大につながります。強制減反にばく大な予算を使うのではなく、米飯給食など消費拡大にこそ予算を回すべきです。
(新聞「農民」2008.4.28付)
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