中国の農業・環境政策を現場に見る優れた所と遅れた所・可能性と危険性元毎日新聞社会部記者で、現在は早稲田大学大学院教授の原剛(たけし)さんが、農水省農林水産政策研究所のセミナーで「中国の農業・環境政策を現場に見る」というテーマで講演しました。その内容を紹介します。
早稲田大学大学院 原剛教授の講演から冷凍ギョーザの中毒事件を発端に、中国農業への関心が高まっています。北京大学と早稲田大学の共同研究で、中国の農村の調査を続けてきて今年で七年たちますが、中国社会はいま、非常に大きな矛盾をかかえていると実感しています。政治、経済、環境などすべての面で優れた所と遅れた所、可能性と危険性というように両極端が並存している状況です。
農薬の管理も環境の規制も深刻農業でも、日本よりも徹底管理された有機・無農薬の農場がある一方で、そのすぐ周りにはまったく農薬の知識がないまま栽培されている野菜畑が広大に広がっていて、どちらも日本に輸出されています。劣等生も膨大だが、輸出向け・富裕層向けの「緑色(有機)食品」を作る優等生もたくさんいて、この優等生が日本市場を狙っているわけです。環境問題も深刻です。先日調査した渤海の内海は、日本の漁業も大被害を受けているエチゼンクラゲを大量発生させている海域ですが、ここに流れ込むリャオ河河口の汚染は想像を絶する状態でした。もう水ではない。お汁粉のように粘っていて、波音がしない。中国はいま経済発展最優先で、お金を払えば工場排水を垂れ流してよいというように環境規制がないんですね。 同時に、この河口域には日本への渡り鳥の中継地にもなっている広大なアシの湿原があって、国の鳥獣保護区であり、エコロジカルファームが営まれていて、その生産物は緑色食品として出荷されている。まさに並存する両極端をかいま見ることができます。
自発性・内発性乏しい農村・農民毛沢東時代の過剰な農地開拓の後遺症による表土流出も深刻です。中国政府は今、日本の総耕地面積の三倍という史上空前の規模で「退耕還林(たいこうかんりん)」政策を推進しています。黄河・長江流域の傾斜度二十五度以上の農地を林地に戻し、かわりに政府が抱えている輸出に回せない低質の穀物を住民に与えるという環境政策です。この「退耕還林」の現場を調査すると、農村に広がる深刻な疲弊に直面します。展望が持てず、建築工事などの出稼ぎで食いつなぎ、いざとなると政府の援助を待望する農民が多い。農民自ら「自分の困難をなんとかしよう」という自発性・内発性が非常に乏しいのです。
調査に入って村の立て直しも…調査に入った村には農産物を出荷したり、生活資材を搬入できるような車道がなく、自分たちで造ろうという機運もないのがたいへん不思議でした。調査隊とNGOが協力して村の立て直しの経験を積むなかで、農民も意欲をもって取り組むようになっています。中国社会全体を考えても、この農村・農民からの自発的・内発的発展なしに前進はないと思います。酸性雨や黄砂が日本に降り、渡り鳥が行き来するのを見ても、日本と中国が共通した生態系をもつ隣国であることはまちがいありません。また中国が食料の自給力を失えば、食料輸入大国の日本は大きな影響を受けます。中国の農業・環境問題は、日本の安全保障問題でもあると私は考えています。
(新聞「農民」2008.3.31付)
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[2008年3月]
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