福島・会津農民連会長の前田新さん
第51回農民文学賞を受賞
小説「彼岸獅子舞の村」
書く動機は―――
政府の農政の中で村は荒廃、これにどう立ち向かうべきか
―この思いから
福島県農民連副会長で会津農民連会長の前田新さん(71)が、小説「彼岸獅子舞の村」で、日本農民文学会の第五十一回農民文学賞を受賞しました。この小説は、後継者不足に悩み荒廃する農村のなかで、民俗芸能の彼岸獅子舞を若者にどう伝えていくか、保存会会長を主人公にその苦悩や喜びを表現した作品です。
前田さんに“喜びの声”を投稿していただきました。
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敗戦を小学二年の時に体験した私は、戦後の農業と農村の変ぼうのなかを、一人の農民として生きてきました。農業高校を卒業後、青年団活動から農村演劇に没頭し、農民組合から農民連へと発展する農民運動にかかわり、村の仲間と苦楽をともにしてきました。
昭和五十五年当時としてはまだ珍しかった農事組合法人を立ち上げ、水田農業の効率的な施設と農機の利用をはかってもきました。しかし、農民の必死の努力にもかかわらず、この国の農業政策によって村は衰退し、今まさに解体の危機に直面しています。
その現実に農民自身がどう立ち向かうべきなのか。状況のなにをとらえ、守勢から攻勢に転ずべきなのか。その力はどこにあるのか。そうした思いが、運動の現役から離れてあらためて脳裏を去来しました。小説「彼岸獅子舞の村」を書いた動機は、そのことにあります。
私の村には、民俗芸能の“彼岸獅子舞”が継承されています。無形でしかも芸能であるがゆえに、その保存と継承は村という組織とそこに結ばれる人間の絆(きずな)と不離一体の関係にあります。その危機はそのまま村の危機を意味します。
私も、すでに古希にいたりました。十年前に脳梗塞を患い、左半身に重度の後遺症が残ります。が、幸いにも新聞「農民」のコラム(旬の味)を一昨年まで書く機会をいただきました。そのことが終わって、小説のかたちを借りての「村からの発信」を思い立ちました。はからずも、それが今回の受賞となり驚いています。各位に深く感謝するとともに、もしそれが何かに役立つなら、冥利に尽きます。
【略歴】
1937年11月生まれ。福島県会津美里町在住。町議8期、農業委員と農協理事各5期。日本現代詩人会、日本農民文学会、日本民主主義文学会所属
(新聞「農民」2008.3.24付)
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