農協のやることじゃあねえべ
岩手県で進む乱暴な農協合併
借金取り立てに農家は自殺や廃業
これ以上の農家つぶしはない
「今度の合併は、農協のための合併であり、農家のためではない。協同組合の精神はどこにいってしまったのか」―いま岩手県では、農家組合員の意向を十分聞かない“乱暴”な農協合併が急速にすすめられ、地域を揺るがす大問題になっています。
協同の精紳はどこへいった!
“平成の一揆”起こすしかねえ
この地域は、存続する新岩手農協に、岩手宮古・北いわて・いわて奥中山・いわてくじの四農協が吸収される予定です。吸収されるいわて奥中山や北いわて、岩手宮古の各農協では、欠損金の処理のために組合員の出資金を約八〇%も減資します。つまり、百万円出資していた組合員の出資金は二十万円しか残らないということ。
借金返せぬなら農業をやめろ!
久慈市旧山形村で短角牛を四十頭余り生産している肥育農家の落安賢吉さん(61)は、「納得できない農協合併」という題で、地元の新聞・岩手日報に投書した人。「今回の合併には、怒りすら覚える。若いころ、先輩から協同組合とはなんぞや、を教わってきた。農協は経営体であると同時に、奉仕体であり運動体だ。その精神はどこにいってしまったのか。いま農協がやっていることは、合併を理由に借金をすぐに返せ、返せないなら農業をやめろというものだ。農家の経営を守らないで、どうして農協といえるのか」と、怒りがおさまりません。「これまでは牛が売れるまで、エサ代などの支払いは待ってくれた。これからは、翌月支払いにするのか。収入がなければ借金して払うしかない。農家の借金は、規模拡大を進めてきた農協の指導責任もある。一時凍結するなどの措置がとれないか」
総代会を前に「仲間とも連絡をとって、しっかりと声をあげていきたい」と話す落安さん。新聞の投書の最後で「今こそ勇気を持って『平成の農民一揆』を起こすしかない」と締めくくりました。
農協の指導の下規模拡大すすめた
いわて奥中山農協では「借金返済のために牛をすぐにでも売れと言われ、そうしないと明日からエサの取引を止める」と追い詰められた酪農家の主婦が、十二月中旬、焼身自殺しました。
「農協のやることじゃあ、ねえべ」と憤るのは、“この地域は草しかまともに生えないから酪農を始めた”という開拓農民の初森栄一さん(74)。一時息子さんに経営を譲り、農協の指導のもと、頭数を増やし大型機械を入れて規模拡大を進めました。農協の計画では、年間の所得が千三百万円になるはずでしたが、五年後には二百万円の赤字になり、とうとう息子さん家族は“夜逃げ”同然に経営放棄してしまったと言います。
経営を引き取った初森さんは、借金を返しながらなんとか黒字を維持してきましたが、昨年十二月ごろから農協の取り立てが厳しくなってきました。農協から「合併は上が決めたこと。二月までに返せ。返せないなら農業を辞めろ」とおどされ、裁判所にも呼ばれました。「農協は『辞めます』と言うのを待っている。辞めたら担保の農地や宅地を全部失い、明日からどうやって生活すればいいんですか。農協は『生活保護を受ければいい』、そうまで言うんだよ。これが農協ですか」
「農政の悪さが根底にある」と言うのは、いぜん酪農家だった神田拓谷さん(59)。「大規模化しなければ、補助金を付けないような農政をすすめてきた。いま使われないスチールサイロが無残な姿をさらしていますよ。こういう農政も見直さなければ…」
こうした事態に、いわて奥中山農協に「農家への十分な説明が行われ、納得を得られた上で進められるよう」、稲葉暉町長名で要望書を提出した一戸町では、農協合併課題対策検討委員会を立ち上げ、農家への支援策などを行っていこうとしています。
協同の力を土台に立て直しを!
農協で働く職員で作る県農協労組では、「合併推進を目的に農家を営農中止に追い込むようなことはするな、人員整理はするな」と、県や農協中央会に申し入れています。中央執行委員の村田浩一さんは「再建整備になった北海道の鵡川(むかわ)農協は、合併しないで協同の力を土台に、役職員と農家の努力で農協を立て直し新たな前進を始めています。こうした取り組みにも学ぶべきだ」と話します。
二月二日に行われた新岩手農協の総代会は、四農協を吸収する「合併案」を否決しました。
農協の原点は、農業生産です。生産する農家をつぶして農協だけ生き残ることはできません。いまこそ、農家の理解や協力を得ながら、ともに歩んでいくことが求められています。
16農協を6つに
県内にはいま16の農協がありますが、これを08年度末までに6つの農協にしようというのが県農協中央会の計画。その理由は、「自己資本比率が8%を下回り繰越欠損金がある財務基盤の弱い農協の解消」です。「財政基盤の弱い農協」と名指しされた大きな理由は、固定資産の減損会計と国際決済銀行(BIS)が決めた国際ルールによる自己資本比率という会計制度の見直しでした。そして、“身ぎれいにして来い”と言われている農協では、自己資本比率をあげるためにどんなことが行われているのか。借金の厳しい取り立てに農家が自殺や廃業に追い込まれ、農協と農家の板ばさみにあった農協の職員も自殺しています。
合併すれば、香川県と徳島県をあわせた面積を超えるという県北地域に、その実態を見ました。
(新聞「農民」2008.2.11付)
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