自然の営みのなか自然農法で
がんばる若者グループ
里山に吹く青年の風
奈良市の旧都祁村
関連/農民連女性部第19回総会
行っても行ってもこんもりとした雑木林の里山がつづく奈良市深川町(旧都祁〈つげ〉村)。そこここに小さな集落と小さな田畑・茶畑が散在しています。ここで共同生活をしながら、作り手のいなくなった茶畑や田畑を借りて自然農法に取り組む青年たちがいます。「やまと心農縁(こころのうえん)」。全員が新規就農した、もしくはしようとしている二十代から三十代の青年たちです。
作り手いない茶畑再生に挑戦
作物を土地に合うやり方で
「自然の営みの中で、自然の恵みを受け取れる生き方がしたい」。そんな思いを胸に、伊川健一さん(26)が都祁で野菜とお茶を作り始めたのが七年前。以後、一人また一人と志を同じくする仲間が増え、現在は四人の仲間で、おのおのの個性と自主性を生かしながら、お茶を中心に野菜、豆類、根菜類、水稲と、二・三ヘクタールまで増やしてきました。
大切にしているのが「その土地に合う作物を、その土地に合うやり方で、その土地の循環のなかで育てる」こと。無農薬・無化学肥料というだけでなく、耕起も施肥も最小限で育てています。
でもすごく「頑張って」も、「突っ張って」もいない。あくまで自然体です。「一人で完結しないで、たくさんの人の助けを借りる」ことを大切にしているから。「しんどいなと思うことをやめることで、別の可能性が開けてくる。その扉を開けるのがたいへんだけど、今までその繰り返しだった」と伊川さん。七年の間には、野菜ボックスの宅配をやめる決断をしたこともありました。
友人、知人、取引先の有機食品店で知り合った消費者らを誘って、お茶の摘み取り、草刈り、田植え・収穫などの農作業をイベントにして手伝ってもらったり、デザイナーの友人にお茶のパッケージを作ってもらったり。「自然の豊かさを表現するのは、農家だけではできない」と伊川さん。
今、青年たちの周りには人が人を呼んで、就農を目指す青年だけでなく、デザイナー、陶芸家、助産師などなど、農的な生活を通じて自分の道を模索する青年のネットワークが広がっています。新たな出荷先もこの輪から広がりました。ゆくゆくは里山カフェを開くなど、「まち」と農山村の交流をすすめたいというのが青年たちの夢です。
地域住民を大いに励ます
お年寄りや地域に助けられ
旧都祁村も高齢化の押し寄せる中山間地。自然農法でがんばる青年農業者のグループは、地域の注目の的です。でもトラブルもなく、借りている農地はすべて無償貸与。「年とって、もう作れない。荒らしているより若い人に好きなように使ってほしい」という耕作依頼が後をたちません。
それも、「お年寄りが持っている農業や生きる知恵を、未来に引き継いでいきたい」(グループの一人、羽間一登〈はまかずと〉さん=31=)、「農業をしたい気持ちがわがままになってはいけない」(伊川さん)という青年たちの姿勢があればこそ。今、羽間さんが借りている田んぼは、地元農協の専務も務めた有力な農家が貸してくれた農地です。「地域のお年寄りから僕らが学ぶことはたくさんある。お年寄りや地域に助けられて僕らはここで農業ができている。本当に感謝しています」
未来へキラリ光る力強いまなざし
農民連会員にいい刺激です
伊川さんと羽間さんは奈良農民連北和センターの会員です。地域の食文化研究会で、北和センター事務局の森口いち代さんに出会ったのがきっかけでした。「農民連で労災に入った直後に手をケガして、あの時は助かりました」と伊川さん。以来、農民連のイベントに生産物を出したり、歌を披露したり(伊川さんはシンガーソングライターでもあるのです)といった方法で農民連の活動に参加しています。
森口さんは、「青年たちのがんばりが、農民連の会員にとっても、どれほど励みになっていることか。“おれたちもがんばらないけん”と、いい刺激になっています。私たちも青年たちに学びながら、ともに成長していきたい」と言います。
「よく偉いねって言われるけど、二交替で夜も働いている人や、満員電車に揺られて通勤するサラリーマンの方がずっとたいへんだと思う。僕らがどういう時代背景に生きて、どういう村で、どういう土地で農業しようとしているのか、しっかりとらえて生きていきたい」と伊川さん。「地域の農家がなくなってしまったら、僕らも農業できなくなってしまいますから」と言う羽間さん。穏やかさの中に光る、未来へのまなざしが力強い。
農民連女性部第19回総会
◇2月3日(日)〜4日(月)
◇ホテル機山館(東京・文京区本郷4―37―20)
◇参加費 1万円(保育もあります)
申し込み=各都道府県または農民連本部
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(新聞「農民」2008.1.14付)
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