笑いと涙、感動がつまった
農業ドラマを書きたい
農業を語る
脚本家 高橋正圀(まさくに)さんに聞く
東北農民運動交流集会の講演から
〈プロフィル〉 一九四三年、山形県米沢市生まれ。シナリオ作家協会所属。山田洋次監督に師事し、テレビドラマ「まんさくの花」「はっさい先生」など多数。一九九〇年、青年劇場に初めて書き下ろしたのが「遺産らぷそでぃ」。その第二弾が「菜の花らぷそでぃ」。最新作は、九月に青年劇場が上演した「シャッター通り商店街」。
11月22日に開かれた東北農民運動交流集会で、脚本家の高橋正圀(まさくに)さんが「次の農業ドラマを模索しながら」と題して講演しました。その一部を紹介します。
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本気で自給率を高める努力を
農業の問題は都会人の問題だ
農業の問題を、消費者にもっと理解してもらえればという願いを込めて、笑いと涙でおもしろくエンターテインメントするのが、僕の仕事です。
農業とは無縁な中で育ち、農業ドラマを書くことになるとは思ってもいなかった。なぜ農業ドラマを書くようになったかというと、農業の問題は百姓の問題ではなく、都会人の問題だからです。
作家の山下惣一さんが書いた「ひこばえの歌」を読んで、非常におもしろかった。これは農家の遺産相続をめぐる話で「遺産らぷそでぃ」を書き、青年劇場が上演したわけです。“らぷそでぃ”とは、大騒ぎという意味です。
これが評判になって、八年間で全国で三百回くらい、観客は二十五万人にも及びました。この間、ウルグアイ・ラウンドで米自由化を受け入れたりということがあって、シナリオを四、五回書き直しています。
ドラマの切り口みつけるに10年
さっそく「第二作を」と言われたが、そう簡単ではありません。
ドラマの切り口を見つけるのに十年かかって、山下さんの随筆集「身土不二の探究」を読み、今度は“食”をテーマに「菜の花らぷそでぃ」を書きました。このきっかけは、都市から農村にホームスティに来た高校生の話でした。「何がつらかったか」と聞いたら、「みんなといっしょにごはんを食べるのがつらかった」というんです。これにはビックリしました。
そして、グリーンツーリズムやアメリカ娘が登場したり、再演では親子の対立や「家」の問題をサブテーマにしました。これもけっこう好評で、今も上演ツアーが続けられています。
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“菜の花らぷそでぃ”の一場面
から(撮影=蔵原輝人)
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工業品と農作物同列に置くとは
そして、いま三作目を求められているけれども、切り口が見つかりません。テーマは、グローバリゼーションに尽きると思っています。NHKで「ライス・ショック」という番組を放映していましたが、自由化になると、店頭に外国産の安いササニシキやあきたこまちが並び、台湾の農民は農業が続けられなくなって、一日中ただボーっとしている。まだ米づくりを続けている農家は企業のいいなりです。自由化しちゃいけないとつくづく思いました。
そして、東大教授の本間正義さんには、本当に腹が立ちました。この人はたんなる教授じゃない、政府の有力な審議会のメンバーなんです。こういう人から目を離しちゃいけない。工業製品と農産物を同列におこうなんて、絶対にあってはならないし、食料自給率を高めるために本気にならないといけない。国際競争力に太刀打ちするために、四ヘクタール以上の農家しか相手にしない農政なんて、本当に笑っちゃいますよ。アメリカは千六百ヘクタールですから。こんな連中に農政のかじ取りをまかせておけない。
そして、アメリカに追随するのもいいかげんにしろ、と言いたい。アメリカの言うことを聞かないとイラクのようになるぞ、というのは傲慢(ごうまん)なやり方です。これに追随していいのか。首相だった小泉さんは「少しの痛みを我慢しろ」と言って構造改革をすすめましたが、汗水流して働いている人が不幸になり、地方には冷たい政治です。
農業はすべての原点だから…
農業は作物の生産だけではなく、国土の保全など多面的な役割を持っています。農業はすべての原点、もし失ったら私たちは流浪の民です。
微力ですが、笑いと涙、そして感動がつまった農業ドラマを書くつもりです。
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茨城・石岡市 末永明美
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(新聞「農民」2007.12.10付)
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