農業後継者育成
地元の思いは
地域に残って就農してほしい
人材派遣の「パソナ」−研修後、農業ビジネスに
人材派遣会社パソナが農業分野に参入し、中高年や若者を対象に農業研修や農業ビジネススクールを実施しています。パソナと共同で後継者対策に取り組む自治体も。パソナによる農業参入の実態は? 農業後継者の育成に必要なのは?
農業担い手は地域で育てる−紀ノ川農協
パソナ(本社=東京・大手町)は二〇〇三年から農業分野に参入。その目的を「農業をビジネスとしてとらえ、新しい知識と発想を持った人材が参入することで、農業全体が活性化し、周辺産業も含めた更なる雇用創出をめざす」とうたっています。
本社地下に就農支援施設を設け、人工光や水耕栽培で大量の水や電力、エネルギーを使い、稲、トマト、サラダ菜などを栽培。大量のコストをかけていると思われる水光熱費の額については、明らかにしていません。
今年から中高年を対象に、農業ビジネススクールを開校。「ビジネススキル豊かな中高年に農業経営を学んでもらい、卒業後、農業法人、地方自治体の農業経営のサポートができる人材を育てる」のが目的です。
農業研修としては〇四年から、若年層や社会人経験者を対象に半年間の「農業インターンプロジェクト」を実施。秋田県大潟村、青森県南部町、和歌山県の日高川町、有田川町で研修。パソナの担当者によれば、〇六年までの三年間に四十四人が参加し、約六割が農業法人など農業関連ビジネスに“就農”したと説明します。
研修先、和歌山県では、県が「和歌山農業塾」としてパソナと協働で農業・農村体験研修を〇五年から実施。半年間の研修で毎年二人ほど受け入れています。〇六年まで県内に残って就農した人はゼロ。〇七年は六人のうち五人が引き続き県内に残る予定です。
日本共産党の松坂英樹県議は、県とパソナとの協働の問題を取り上げ、「農業の振興を図り、新しい担い手をつくろうとする行政の立場と、パソナの考える人材という点で、県はどう考えるのか」とただしました。
県は「パソナは技術を持った人材を法人等へ派遣したいとの思いがある。将来不足するであろう農業の担い手を派遣するビジネスとして成り立つのではないかということで今は投資を行っている段階」としたうえで、「必ずしもパソナの思いと地元の思いとが一致しているとは言えない」と答えました。
和歌山のある農家は本音を漏らします。「半年の研修では…、仕事ができるようになるには三年はかかる。(研修後も)地元に残ってほしい」
農村にとって、地域農業の担い手を作り、育てることが最大の課題となっています。和歌山県の紀ノ川農協は、新規就農支援プログラムを実施し、担い手の育成で大きな成果をあげています。
紀ノ川農協の元職員、薮下直樹さん(42)は、JAの元職員だった紀ノ川農協の辻本和男理事のもとで一年間研修。昨年生産法人を立ち上げ、自立してから三年目を迎えます。昨年から脱サラ青年を受け入れ、後継者作りに力を注いでいます。
元自動車整備工の西尾俊哉さん(34)は、「紀の川市環境保全型農業グループ」の役員で循環型農業による周年栽培に取り組んでいる組合員、東浦博さんに指導を仰ぎ新規就農しました。同グループは、地元の学校給食やスーパーでのインショップ、地産地消の運動にも力を入れています。
紀ノ川農協の宇田篤弘組合長は「地域とかかわり、地域農業を発展させるなかで、人が育ち、またその人に育てられながら、担い手が生まれ、育成される」と語ります。
(新聞「農民」2007.11.26付)
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