消えた年金 つのる不安
決して楽ではない生活の中から、必死で納めてきた年金の保険料。誰にとっても老後の生活の大切な支えです。ところが、誰のものか分からない年金記録が五千万件もある! 保険料はきちんと払ったのに、その分の年金が受け取れない人がいる――こんな事態に、いま歴代政府の責任が大きく問われています。
国の責任で解決を
加入者全員に記録送付して
「必死で払ってきたのに、納付記録がなくなる
なんて、どういうこと!」。
こう息巻くのは、奈良県のナシ農家の中元悦子さん。どうしてこんなことになったのでしょう?
今から十年前、一九九七年にそれまでの厚生年金や国民年金など年金ごとに違っていた年金番号を統合し、一人が一つの年金番号を持つ基礎年金番号制度が始まりました。ところがこの時、名前と生年月日が一致しないなどの理由から、基礎年金番号に統合できない膨大な納付記録が生じたのです。
無年金になってしまう恐れも
たとえば、別表のような経験のある人は、一人の人が複数の年金番号を持っている可能性があり、納付した記録がつながっていないことがあります。
ちゃんと保険料を納めていても、年金番号が統合されていないと、その不明期間分の保険料が年金額に反映されなくなってしまいます。一年分の納付記録が消えたとすると、国民年金だと年額約二万円、厚生年金だとさらに数万円もの減額となります。記録のある期間が二十五年未満だと、受給資格がなしとなり、無年金になってしまう深刻な事態も起こっています。
国民に知らせず10年間放置
保険料の納付記録の管理責任は、国にあります。厚生労働省は、基礎年金番号制度を導入した当初から、膨大な年金記録が誰のものかわからない「宙に浮いた」年金になっていることを把握していました。にもかかわらず国民に知らせることもせず、十年間も放置していました。市町村によっては国民年金の納付台帳の原本も廃棄処分されており、政府と歴代厚労相の責任は明らかです。
社会保険労務士の真嶋安代さんは、「長期にわたって保険料を払い続ける年金制度は、国民がそのしくみを信用して初めて成り立つ制度です。それだけに、国の責任は重大です」と指摘します。
国民世論に押されて安倍首相も「すべて政府に責任があると認識」(六月十一日、参院決算委員会で日本共産党の小池晃議員の質問に答えて)と答弁する事態に追い込まれています。しかし依然として年金記録の修正は国民からの申請待ち、受給もれが判明しても納付したことの立証は国民が自分でする仕組みはそのままです。さらに、安倍内閣は年金に直接責任を負っている社会保険庁を分割・民営化し、解体までしようとしています。これでは最悪の責任のがれです。
いますぐ自衛策とるには…
真嶋安代さんは、個人が今すぐできる自衛策として、(1)受給中の人も、そうでない人も全員、社会保険事務所から自分の納付記録を取り寄せる、(2)自分の記憶を呼び起こして、職歴と年金の加入歴を洗い出し、(3)納付記録と相違点がないか確かめる、ことをアドバイスしています。「でも本当は番号のあるすべての人に、国がいっせいに加入記録を送るのが一番、有効なのですが」と真嶋さん。政府・与党もやっとその方向で検討すると言い始めましたが、送付時期等問題は山積みです。
「この問題がこんなに大きくなるのは、国民の政治への不信がより大きな不安を招いているからだと思うのです。国民の声が届く政治が、問題を解くカギだと思います」
消された私の納付記録
新潟市の野菜農家 渡辺久子さん(77)
国民年金には制度開始当初から加入してきましたが、先日、電話で問い合わせたところ、結婚した前後の実父が保険料を納めてくれていた期間の納付記録が消えてしまっていました。改姓したからでしょうか。父が遠くに嫁いだ私を思って払っていてくれた納付記録が消えてしまったというのは、とても寂しい気持ちです。今度、社会保険事務所に足を運んで、相談してみようと思います。
安倍首相、国民無視の暴走
悪法をつぎつぎに強行採決
安倍首相の指示のもと、自民・公明の与党は、悪法の強行採決を繰り返しています。表のように、これらの悪法は、憲法や平和、教育という“国のおおもと”にかかわるもの、年金や暮らしといった国民に負担を強いるもの、政治の信頼を回復するかどうかといった大事なものばかり。それなのに、与野党の合意がないままに、国会での質疑を「数の力」で一方的に打ち切って強行採決したのです。マスコミも「これほど多くの重要法案の採決を一方的に強行した国会がかつてあっただろうか」と、その異常ぶりを批判。
なぜ、こんなに強行を連発するのか。それは、安倍首相が参議院選挙にむけて、「指導力の発揮」と「実績づくり」を国民にアピールするためです。しかし国民は、こんな安倍首相の思惑を見抜き、この間の内閣支持率は三〇%前後まで急落。それでも、国会の会期を延長し、参議院選挙の投票日まで一週間遅らせ、あくまで自らの「主張」を貫く構えです。
“悪法を通すな! 強行採決は許さないぞ!”と連日、農民連の旗を掲げて国会前に座り込んだ上山興士さん(農民連本部)は「目の前で繰り返えされる強行採決に、はらわたが煮えくりかえる毎日でした。安倍政権が発足してから九カ月の間に、採決強行は何と二十回を超えました。国民の願いを乱暴に踏みにじる政治は許せません。参議院選挙でキッパリと審判をくだしましょう」と、怒りの声をあげています。
自民・民主が農業ビラで醜い泥仕合
農業破壊の責任そっちのけ
参議院選挙を目前に、自民党と民主党が農業ビラを出しています。民主党が「自民党政権が続けば日本の農家は壊滅する!」と書きたてれば、自民党は「デタラメな民主党農政」と切りかえす―なんとも過激な批判合戦です。
しかしビラの中身をよくよく見ると、自民党は品目横断対策を柱に、集落営農で農家すべてを品目ごとに支援し、農地・水・環境を守るという「三つの矢」。しかし、オーストラリアとのEPA(経済連携協定)に、参議院選挙が終わったら本格交渉に踏み出すことには一言も触れず、生産現場からは「品目横断対策や集落営農は規制が多すぎて、監獄の中に入っているようだ」との批判が。
一方の民主党は、「たとえ一俵五千円になってしまったとしても、中国からどんなに安い野菜や果物が入ってきても、すべての販売農家の所得は補償され農業が続けられます」というもの。しかしコメ輸入自由化を決めた細川内閣の中心にいたのが、民主党の小沢一郎代表。“究極のFTA”と言われるアメリカとのFTAを早期に締結し、あらゆる分野で自由化を促進するのが民主党の農業政策です。
自民党も民主党も根っこは同じ。全面自由化と「財界農政」の推進では、農家の経営を守り、国民の食料を確保することはできません。
(新聞「農民」2007.7.9付)
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