赤道間近の緑豊かな島ボルネオ(マレーシア)で開かれた
「食糧主権国際フォーラム」に参加して
農民連副会長 真嶋 良孝
ビア・カンペシーナ東南・東アジア地域会議と「食糧主権国際セミナー」が五月二十九日から六月一日まで、マレーシアのボルネオ島、サラワク州で開かれました。北緯二度、もう少し南に行くと赤道という熱帯に位置するサラワクの州都クチンは、サラワク川が中心部を流れ、いたる所に緑豊かな公園が広がる美しい都市。
会議には、農民連から真嶋良孝副会長と通訳をかねて杵塚歩青年部副部長が参加しました。会議のようすを真嶋さんがリポートします。
熱帯雨林むしばむ乱開発
バイオ燃料ブームが生む逆流
着実に広がる食糧主権実現の動き
会議では、食糧主権をめぐって逆流ともいえる状況が生まれていることを直視するとともに、二月の国際フォーラムの成果をいかして食糧主権を実現するために奮闘する決意を固めあいました。
食糧輸入が激増する一方で
逆流を痛感したのは、バイオ燃料ブームのもとでアジアに広がっているプランテーションとモノカルチャーでした。
サラワク州では油ヤシなどのプランテーションが四十万ヘクタールから二百万ヘクタールに急増し、非食糧農産物の輸出が増えている反面、食糧の輸入は八年間で一・七倍に増え、食料自給率は下がる一方です。
さらにマレーシアとインドネシアの国境地帯には東南アジアで随一のボルネオ熱帯雨林が広がっていますが、これを皆伐して百八十万ヘクタールもの油ヤシプランテーションを開発する計画が持ち上がっています(〇五年のインドネシア・中国政府の合意)。
地球温暖化対策に最も効果的な熱帯雨林を乱開発してバイオ燃料を作るという逆流に加え、食糧輸入が激増しているアジアで、輸出用の非食糧農産物のプランテーションが異常増殖しているという逆流。会議では、食糧主権実現のために、こういう動向を監視し、草の根からの運動を強めることが合意されました。
農地改革は停滞、土地取り上げ
また、プランテーションの急増のもとで、農地改革の停滞と農民・先住民からの土地取り上げが相次いでいることも、食糧主権に対する逆行として告発されました。
インドネシア農民組合連合の代表は、一戸あたり農地所有面積が八三年の〇・八九ヘクタールから二〇〇三年には〇・五ヘクタールに落ち、土地なし農民が増えていると告発。
サラワク先住民・農民運動の代表は、農地の七〇%をプランテーションが所有し、農民による所有は二〇%にすぎないことを指摘。同時に「簡単に諦めてしまえばすべてを失うだろう。しかしたたかい続ければ未来は開ける」と強調しました。
フィリピンでは、広範な農民・市民組織が連帯し教会とも協力して、農地改革法の抜本的な改善と徹底を求める大規模な「農村会議」を来年一月に開く計画を説明し、国際的な連帯の大切さを強調しました。
中南米、インドネシアの動向
同時に、二月の食糧主権国際フォーラム後、食糧主権の実現をめざす動きが着実に広がっていることも特徴的です。
四月にラテンアメリカを訪問したヘンリー・サラギ氏(ビア・カンペシーナ・インターナショナル責任者)は「ベネズエラでは、食糧主権にもとづいて農村のインフラ整備と農地改革が実行されている。ボリビアでは食糧主権が憲法に盛り込まれる。エクアドルやニカラグア、アルゼンチンなどラテンアメリカの多くの国々で同様のことが起きている」と報告。
インドネシアでは、何人かの閣僚が農民組合連合との交流を通じて、食糧主権を政策に盛り込む方向で動いており、サラワク州農業局も先住民・農民運動と密接に協力しています。
日本の運動に参加者は注目
私(真嶋)は、日本多国籍企業の動きと産直運動・食健連について報告しましたが、これが参加者の注目をあびました。
ヘンリー・サラギ氏は討論のまとめで「私たちができる直接行動として産直のようなオルタナティブ(対案的)な運動がある」と、わざわざ「サンチョク」という日本語を使って言及。さらにタイ・フィリピンとのEPAでアジアを産業廃棄物の捨て場にすることをねらい、アジアでバイオ燃料生産に乗り出そうとしている日本の大企業を含む多国籍企業のやり方に反対するキャンペーンを今後の運動の重点にすることが合意されました。
また、韓国の農民・市民組織は七月七日に食糧主権に関するフォーラムを開きますが、ベネズエラ、キューバ、マリ、ネパール代表とともに日本の代表も招待されています。このねらいについて、韓国女性農民会の前会長、ユン・グンスンさんは「食健連のようなネットワークを作るためにはどうしたらよいかを聞きたい。来年には結成したい」と強調しました。
◇ ◇ ◇
情勢は容易ならざるものがありますが、これに立ち向かうビア・カンペシーナの方針と決意を固めあい、共感と連帯がますます深まったといっていいでしょう。
(新聞「農民」2007.7.9付)
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