「農民」記事データベース20070702-786-01

米価の下げが競争力であるかの
ような議論はごまかしだ


 EPA・農業ワーキンググループで意見を述べた (株)ぶった農産・社長

    佛田 利弘さん


 石川県野々市町にある(株)ぶった農産の佛田利弘社長は今年二月、経済財政諮問会議のEPA・農業ワーキンググループに呼ばれ、意見を述べました。佛田さんは、同グループの輸入自由化を前提に「構造改革」を迫る議論に対して、地に足のついた反論をしています。その思いを聞きました。


経済財政諮問会議の議論に反論する

 一番の問題は農家の価格決定権

 経済財政諮問会議を中心に“EPAを急げ”といった議論があるわけですが、私はいま事実関係を整理して国民に示し、判断してもらうことが、たいへん大事だと思っているんです。事実関係を整理していけば、この議論で欠落していることが明らかになってくると。

 例えば、ワーキンググループでは、「一俵(六十キロ)一万一千円の米価でも高い」という議論がされているのですが、私の経営から導き出される米の生産費は、現状では一万五千円です。社員には時給千六百円で年間二千時間、三百二十万円の給与を払っていますが、そのほかに現状の土地条件、気候条件、栽培技術の水準、流通の仕組みなどさまざまなことを総じて考えれば、これくらいかかるということです。

 私は、日本農業の一番の問題は、農家が事実上価格決定権を持てないでいることだと思うんです。関税をどうするかという議論をする前に、また国内の生産や流通の自由化をする前に、農家は自分で作った物の価格を決めることができないといけない。つまり、EPAやWTOはその次の話なんですよ。

 価格決定権がないのに自由化すれば、価格が下がるのは当然です。今の米価は相場です。それを下げることが、あたかも競争力を強めることであるかのように言い換えているのが経済財政諮問会議の議論です。しかし、“農家は一万一千円でも作れる”のではなく、一万一千円でも売らざるをえないのです。

 もう一つのごまかしは農産物の価格が高いことによって、消費者が必要以上のコストを払っているという議論です。消費者の利益を議論するのであれば、消費者価格を論じなければならないのに議論を単純化させて生産者の価格のみを論じているんです。それなら逆に、この十数年間で生産者米価は急落しましたが、小売価格はそれに比例してどれくらい下がったでしょうか。

食料の外国依存より自給率向上
共生社会維持し農業守るには…

 食料供給リスクとその担保は…

 EPAが、安定的な食料の輸入を担保するかのような議論も問題ですね。そもそも、災害などが起きて供給が減れば自国民を優先するのは当然で、その時でも日本が食料の供給を外国に依存できると、どうして言えるのでしょうか。

 日本の食料自給率は、カロリーベースで四〇%ですが、残りの六〇%がまったく入ってこなくなることは起こりにくいとしても、その一割がストップすることはリスクとして考えられます。輸入農産物の多くは穀物で、穀物は投機の対象になるので価格は暴騰するでしょう。現にアメリカのバイオエタノールの生産振興でトウモロコシが高騰し、マヨネーズも値上がりしています。

 したがってカロリーベースで六割も食料を海外に依存することはリスクが大きいから、輸入を半分に減らして自給率を七割に高めようとなったときに、どれくらいコストがかかるか。それも含めて、食料供給のリスクと、それをどう担保するかということについて、政府は国民にもっと情報提供すべきです。そうすることによって、消費者サイドで何ができるのか、すべての食品に原産地表示を義務づけて消費を通じて自給率向上に協力しようということにもなるんじゃないかと思います。

 農業の多様な価値を国民に

 日本は古来、水稲の栽培を中心にして水系社会を形成してきました。水系社会とは、水を公平に分けて使う共生社会です。こういう価値観を持ちながら、大規模経営も兼業農家も、またさまざまな人たちが寄り集まって、全国津々浦々に存在する集落を構成しています。

 同時に、かつて専業農家ばかりのときは、集落を構成する人の目的や価値観は極めて近かったのですが、兼業化の進行によって、各人の勤務先の価値観が多様な形で集落に定着するようになりました。いま集落の主力を担っているのは、専業の親に育てられた世代です。でも、これから兼業の親に育てられた世代が主力になる二十年後くらいには、農村はまったく違った様相になるんじゃないかと思います。

 そうなっても、農業の生産力を維持するにはどうしたらいいか。共生社会としての集落の機能を維持しながら、農業を経営として成り立たせていくにはどうするか。守るだけでなく、社会の変化にコミットして、地域を発展させることが大事だと思います。

 以前、梅干しを作ったんだけど、どう売っていいか分からないから教えてくれというので、能登のある集落に行ったことがあります。過疎の集落です。でも裏を返すと過疎というのは、昔この村に住んでいた人が外にたくさんいるということなんですね。そこで、この人たちをお客さんにしない手はないと話したんです。

 農業はいろんな要素がからみ合って複雑な構造をしています。しかし、経済財政諮問会議は議論を単純化し経済原理の論理で攻めてきます。この議論に単純に反論するだけでは、相手の思うつぼです。農業の多様な価値を国民に知ってもらい、国民とともに考えていく環境を整えることが大事だと思っています。


〈メモ〉(株)ぶった農産 水稲・野菜等の栽培、水稲の農作業請負、漬物など農産加工・販売。経営面積は、水稲24ヘクタール、かぶ・大根など1・7ヘクタール。88年に有限会社ぶった農産として設立され、2001年に株式会社へ組織変更。
ホームページ http://www.butta.co.jp/

(新聞「農民」2007.7.2付)
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2007年7月

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