「農民」記事データベース20070528-781-01

経済財政諮問会議・ワーキンググループの「第一次報告」

自由化交渉もっと急げ
日本に農業はいらない

米国含む際限ないEPAの実現

関連/雑誌『農民』58号できあがりました


農地制度解体、大企業による農地支配も安倍内閣のねらい

 政府に都合のいい学者や財界代表を集めた経済財政諮問会議。完全自由化すれば「食料自給率一二%」という農水省試算に、“結構残るじゃないか”と放言してはばからない本間正義氏(東京大学大学院教授)が副主査を務めるグローバル化改革専門調査会EPA・農業ワーキンググループが、「EPA交渉の加速、農業改革の強化」と題する第一次報告(以下、『報告』)をまとめ、五月八日に公表しました。『報告』は、財界や多国籍企業が求めるEPA(経済連携協定)交渉の加速を至上目的に、自由化に太刀打ちできない部門=農業は、縮小・撤退しろと言い放ち、日本農業と農地制度の解体を要求しています。

 自給率向上やめ輸入で食料確保

 “もっと急げ”と『報告』が要求するEPAは、際限がありません。ASEAN(東南アジア諸国連合)、オーストラリアに加えて、中国、韓国、インド、ニュージーランドとのEPAを求め、さらにAPEC(アジア太平洋経済協力会議、二十一カ国)、アメリカまであげています。とくにアメリカとのEPAでは「アメリカからの輸入農産物は、米、小麦、豚肉など、わが国の農業への影響が大きいものが多い」ことを認めていますが、交渉入りをやめるというわけではありません。それどころか「わが国農業の強化=構造改革」、つまり農業切り捨てを日米共同で研究することさえ提案しています。

 一方、『報告』は、完全自由化した「オープンな国づくり」では、食料自給率向上ではなく、「輸入による安定的な食料供給」こそが食糧安全保障だと強調しています。食料自給率向上の目標を撤廃し、遺伝子組み換えやBSE、農薬残留の安かろう悪かろうの輸入食料を確保すればいいという議論です。こういう国は「美しい国」でも、住みたい国でもありません。

 大企業の農地支配を認める報告

 『報告』が求める完全自由化とは、「対象品目、関税率とも最小限にすべき」で、一〇%以下の低関税品目はゼロに、米や乳製品、小麦などの「高関税」を大幅に引き下げるというものです。その理由として、「国境措置により消費者が負担しているコストは二兆円」との試算を持ち出し、EPAの加速で「(このコストを)減らすことが可能」だと述べています。これは、農民と消費者を分断し、「やっぱり食べたい日本のお米・農産物」ではなく、「危なくても食べよう、輸入農産物」という「国民的なコンセンサス」を作り出そうという宣言にほかなりません。

 また、『報告』が「大きな一歩を踏み出す最後の機会」と強調しているのが、農地制度の解体、大企業による農地支配を認めよという要求です。つまり、農地の利用権と所有権の移動を自由にして、「農地を株式会社に現物出資して株式を取得する仕組み」をつくれというのです。これは、大企業が自社株で農地を買うことができるようにしろというもので、大企業が資本を使うことなく農地を取得できる仕組みにほかなりません。

 安倍首相も松岡農相も積極的

 農水大臣の松岡利勝氏は「農地改革以来の取り組みとして、今秋に改革案をまとめたい。『報告』のうち、良いものはどんどん取り入れたい」と答えました。また、経済財政政策担当大臣の大田弘子氏は「EPA・農業については、『報告』で大きな議論のベースが出された」「農地改革についても、松岡大臣に積極的な検討をお願いする」と記者会見で述べています。

 竹中平蔵前総務相は五月九日、ワシントンで「首相は積極的だ。日米EPAの方向に動く準備ができている」と語りました。

 日豪EPAに続き、究極のEPAともいうべき日米EPAを実現する、そのために農政改革のテンポと範囲を拡大して、日本農業と農地制度を解体する――これが安倍内閣のねらいです。


雑誌『農民』58号できあがりました

 雑誌『農民』五十八号ができました。主論文は「WTO・FTAから食糧主権確立へ」。第一部では、二月にアフリカのマリで開かれた食糧主権国際フォーラムの内容を紹介。第二部では、WTO交渉、FTA・EPA、バイオ燃料の三つの問題に焦点をあて、課題を提起しています。

 特に、「財界にハイジャックされたとしか言いようがない」経済財政諮問会議のEPA促進・農業つぶしの議論については議事録をたどりながら、その「冷酷・亡国ぶり」を余すところなく明らかにしています。同会議グローバル化改革専門調査会が五月八日に出した第一次報告(大要)も掲載。参院選に向けて、悪政に審判を下す世論を広げる大きな武器になるでしょう。

 農民連第十七回大会特集は、決議や報告などとともに四十三人の発言の大要をすべて紹介。各地の生き生きとしたとりくみが伝わってきます。定価は千円。注文は都道府県連か農民連本部 TEL 03(3590)6759へ。

(新聞「農民」2007.5.28付)
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2007年5月

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