締結相手はクーデター政権
日タイEPAの問題点
国産果実への影響が心配
現暫定政権を歓迎したのは日本だけ
四月三日、来日中のスラユット首相と安倍首相の間で、日タイ経済連携協定(EPA)が締結されました。タイの現暫定政権は、国民からの信任を受けておらず、欧米諸国ではまだ首脳会談を持ったところはありません。日本政府だけが公式に招いた上、四月五日には「天皇謁見」まで組んで歓迎しました。
しかも、一年間棚上げされていたこの協定案は、クーデターで倒したタクシン前政権が準備してきたもので、それを一字一句変えず急きょ締結した背景には、日本側の、とくに財界の焦りがあり、政府が強力に働きかけた経過があります。
一九九二年、スチンダ政権下で起きた民主化運動への弾圧事件で、デモ隊に発砲して多数の犠牲者を出したとき、その特殊部隊を率いていたのがスラユット司令官でした。いくら経済優先・財界主導の政治といっても、これではタイ国民が疑問を持つのは当然です。
日本にとって6つ目のEPA協定
日タイEPA協定は、シンガポール、メキシコ、マレーシア、フィリピン、チリにつづく、日本にとって六つ目のEPAで、商品貿易のほか、サービス貿易、投資、人の移動、知的財産権、政府調達、競争、協力などを含む包括的協定です。日本が自由貿易協定(FTA)でなく、経済連携協定(EPA)にこだわるのは、WTOでは合意が困難なこれら貿易以外の項目を、前倒しで一括して協定に盛り込むのがねらいです。
日・タイの貿易関係は、日本側から見て、タイの比重は輸入で十位、輸出では六位ですが、タイ側から見ると、日本のウエートは輸入で一位、輸出ではアメリカにつぐ二位と重い存在です。
協定は、双方が国内での手続き終了通告をした三十日後に発効し、これと同時に、日本からタイへの輸出額の九七%が無税となり、タイから日本への輸入額の九二%が無税とされます。大企業にとって、一刻も早い協定締結を求めた最大の理由です。
農林水産品関係での締結内容は…
日タイEPAによる農林水産品関係での貿易自由化の概要は、別表のとおりです。米は関税削減対象から除外されたものの、熱帯果実が、協定発効と同時に関税撤廃されます。沖縄をはじめ国産果実への直接的影響とともに、他の果物の消費減退による間接的影響も心配されます。
関税の即時撤廃は、そのほかエビとその加工品についても行われ、マグロ缶詰も、五年間で撤廃されます。鶏肉と加工品では、いずれも五年間で鶏肉(骨なし)では一一・九%から八・五%へ、鶏肉加工品では六・〇%から三・〇%へと関税が半減されます。エビも鶏肉も、タイで最大企業のCPグループが、タクシン前政権に商業大臣を送り込んで交渉を有利に進めた「成果」といわれます。
(つづく)
(新聞「農民」2007.5.21付)
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