食料自給率が12%に下がっても
「国内生産は結構残るじゃないか」
経済財政諮問会議のあきれる議論
農水省は二月二十六日、経済財政諮問会議のEPA・農業ワーキンググループに、農産物の関税を全廃(完全自由化)した場合、食料自給率が現在の四〇%から一二%に下がるとの試算を提出しました。経済財政諮問会議のねらいは、日豪に続いて、日米、日中のEPAの締結に向けた道筋をつけ、財界の要求にもとづくグローバル化をさらに推進すること。農水省に試算を提出させたのもこの議論の一環であり、極めて危険な事態です。
完全自由化で米、小麦もほぼ壊滅
試算によると、完全自由化した場合、小麦、甘味資源作物(テンサイ、サトウキビ)、でん粉原料作物(ジャガイモ、サツマイモ)などが壊滅。生乳、牛肉、豚肉なども一〜三割しか残らず、鶏卵、鶏肉、茶、リンゴ、かんきつ類で八〜三〇%の減少。米も当面、四割減り、最終的には一割しか残らず、この結果、食料自給率は一二%まで低下すると見込んでいます。
また、国内農業の縮小にともなう関連産業の減少額は約九兆円に達し、約三百七十五万人の就業機会が失われる恐れがあると予測。農業と地域経済への影響は、想像をはるかに超えます。
松岡農相は、この試算について、「経済財政諮問会議で総体的な議論をしてもらうため」などと説明。また、財界の「完全自由化論」をけん制するねらいがある、という報道もあります。しかし議事録(要旨)を読むかぎり、このねらいは完全に“空振り”。自給率一二%にも「国内生産が結構残るじゃないかという印象を持っている」(本間正義・東大教授)と、目を疑う発言も出てきます。
米価一万一千円でもまだ高い
自給率の低下に対する危機感はみじんもなく、自由化のテンポに合わせて農業「構造改革」(=農産物価格の引き下げ)を迫るというのが議論の特徴。そして、そのなかで特に“やり玉”に上がったのが米価です。
議論は、米価は「関税によって高止まっている」という勝手な思い込みに始まり、農水省は「二〇一五年までに何とか一万一千円(60キロ)のレベルまでもっていく」と説明。これ自体がとんでもない話ですが、同会議はさらに「一万一千円という数値が余りにも高いというのは共通認識だ」と、いっそうの引き下げを要求しています。
しかし現実は、この十年間で米価は二五%も下がり、今の市場価格(約一万五千円)では九割の農家が赤字。「高止まり」どころか「採算割れ」によって、日本の稲作は存亡の危機に立たされています。こうした中で農業の赤字を兼業収入で補っているのが、大層を占める兼業農家ですが、同会議は「農家が赤字でも作るのであれば、逆に米価を下げていい話」「もっと大胆な価格引き下げの方針を出していけるのではないか」とまで言い放っています。
「財界農政」にノーの審判を
そもそも、「基本計画」で食料自給率を四五%に引き上げる方針を決めている政府が、こんな議論をすること自体、本末転倒。経済財政諮問会議を所管する内閣府の世論調査でも、八七%が「高くても国内で作るほうがよい」と答えており、圧倒的な国民の自給率向上の願いにも逆行します。
小泉〜安倍内閣のもとで、新自由主義にもとづく「構造改革」とグローバル化の司令塔の役割を果たしている経済財政諮問会議。この悪政を終わらせるには、いっせい地方選挙や参院選挙で、与党をはじめ、財界にすり寄る政党に厳しい審判を下すしかありません。
(新聞「農民」2007.4.9付)
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