外食企業が“食育”に進出
農水省のお墨付き
学校に出向く“食育授業”で
自社商品の宣伝に利用
食と農を結びつけた国民の手による食教育の必要性が高まっています。ところが、政府が声高に叫んでいる食育に、ファストフード、製菓業者、外食業者が参入し、食育の名で学校教育に進出しています。その実態はどうなっているのか。
食と農を結んだ伝統食守ってこそ
基本法の中身は?
食育基本法が二〇〇五年に制定され、翌年には、それを具体化する食育基本計画が策定されました。基本計画の中身をみると、「生産者と消費者との交流の促進」「地産地消の推進」などの視点が盛り込まれているものの、「食品関連事業者等による食育推進」という項目が設けられ、食品業者による食育が強調されています。自治体レベルでも、大阪府の場合、「外食・流通産業と連携した取り組み」など、食育推進施策に外食産業が顔を出しています。
マイナスイメージ
外食産業などが力を入れている食育とはどういうものなのか? いずれも出張授業など、小中学校に直接出向き、“食育授業”を実施しているのが特徴です。ファストフードの日本マクドナルドは、「食育オープンスクール」など、小中学生を対象に実施。
スナック菓子で有名なカルビーは、「マイナスイメージが先行しがちなスナック菓子の正しい知識と理解を深めるべく、さまざまな食育支援プログラムを実施」(ホームページ)するとしています。出張授業として、全国の小学校を対象に「スナックスクール」を開き、おやつの食べ方などを指導。栄養士や教職員に向けた工場見学やシンポジウムなどにも取り組む念の入りようです。
モス献立メニュー
出張授業に最も熱心なのが、外食産業のモスバーガー。全国の小中学校で、「食事バランスガイド」を使った「食育」を実施しています。食事バランスガイドとは、一日に、何を、どれだけ食べたらよいかをコマのイラストで示したものです。農水省の〇七年度の食育推進予算は、八十八億円(前年度六十六億円)。そのうち食事バランスガイドの活用・普及の取り組みに、半分近くの三十八億円をあてています。
モスバーガーが作成したパネルでは、一日の必要な食事の量とバランスのとれた食事とは何かをバランスガイドで説明。これを受けて、モスの献立を示し、自社商品の宣伝に利用しています(写真右)。モスのバランスガイド・リーフレットは、モスのバーガー類がずらりと並び、食育どころかモスの献立メニューと化しています。こうしたパネルやリーフレットは、農水省の事業の一環として作られ、いわば同省のお墨付きなのです。
求められる食育は
政府、外食産業主導の食育ではなく、生産者と消費者が手を結び、伝統的な食と農を守り、育てていくような国民の側からの食教育が求められています。
食育は親も子も体・生活の主人公になれる好機
家庭栄養研究会の山崎萬里さん 「食事バランスガイド」の図を使う時にはいくつかの修正と強調をしています。
(1)おかずを「肉にするか、魚にするか」(主菜)から考えていませんか? 副菜(野菜、キノコ、イモ、海藻料理)を多くとるように考え、それに合う主菜を選ぶこと。主食、副菜、主菜の割合は四対二対一で、これは歯の形と本数の割合です。穀類をすりつぶすきゅう歯、野菜のセンイをかみ切る門歯、肉をかみ切る犬歯の本数の割合です。
(2)運動に睡眠の図を補っています。早寝をしなければ早起きができないし、食欲も食べる時間もありません。食育と睡眠はセットで進むことは確かです。
(3)朝食欠食ゼロ運動にも問題があります。まず「朝食を食べたいか、食べたくないか?」を聞いて下さい。食べたいのに食べていないならなぜ? 食べたくないのはなぜ? と、自分の体や生活に向き合い、寝る、起きる時間の改善など自分の生活を変える動機や意欲を引き出していきましょう。
「早寝、早起き、朝ご飯」が、上からの数値目標達成の強制で先生と子どもたちを追い込むのではなく、親も子も自分のからだと生活の主人公になるチャンスにしていきたいと思います。
補助金付きモデル授業に参加して
斉藤敏之・農民連常任委員 食育の一環として、企業が中学校に出かけて授業を行うというので参加してみました。その日は、農水省の補助金付きのモデル授業ということで、父母をはじめ、農水省の担当者など多数が参加。授業を担当したのは、モスバーガーのスタッフ総勢十数人でした。
はじめに、農水省が作成した食事バランスガイドについてのビデオを約二分上映、そのあと、モスのスタッフは、リーフレットを示し、食事をバランスよく食べることを強調。ハンバーガーはバランスの取れた食品だと説明していました。
後半は調理実習室に場所を移し、パン、レタスなどの原産地を説明。レタス以外はほとんど外国産です。スタッフが作ったハンバーガーを試食しましたが、味が濃すぎて二時間ぐらい舌がひりひりしていました。
栄養士・栄養教諭の全校配置を
都内の小学校で栄養士を務める中村扶美子さん(全日本教職員組合栄養職員部部長)
企業の食育への参入が進んでいますが、栄養職員や栄養教諭が、全校に配置されていないもとでは、食育を進める一つの方法として、企業との共同も仕方のない現実があります。しかし現実には、単に栄養バランスなどの教育だけにとどまらず、最終的には企業の宣伝に利用されてしまうのです。
本当の意味での食育とは、企業に頼るのではなく、栄養士、教職員、地域の父母らが児童・生徒と一緒になって進めていくものです。そして国産のもの、地元のものを使った安全でおいしい給食を通して、食育を実践できることが大切です。栄養士・栄養教諭の全小中学校への配置を、自治体まかせにせず、国としてきちんと義務づけることが必要です。
(新聞「農民」2007.4.2付)
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