中国への日本産米の輸出日本農業に大きな禍根残す
一月末に松岡農相が訪中して合意した、中国への日本産米の輸出。安倍首相は「たいへんすばらしい」と、「政治とカネ」の疑惑にまみれた農相の「成果」を手放しで喜びました。しかし日本の農家にとって、本当に喜べることなのでしょうか。
輸出をバラ色に描いても強まる怒り第一に、農相は「数万トン」規模の輸出がすぐにでも実現するかのように言いますが、現実はそんなに甘くはありません。中国は〇二年まで日本産米の輸入を認めていましたが、実際の輸入量は年間わずか一トン程度でした。中国で売られている現地米は一キロ当たり五十円前後ですが、日本産米は運賃を無視しても三百円以上。にわかに大量に売れるとは考えられません。農水省は一月、農林水産物の輸出戦略(中間まとめ)を公表しました。「一兆円目標」という大風呂敷を広げ、あたかも輸出が、日本農業の「閉そく感を打破し、将来の明るい展望を切り開く」かのように描いています。 しかし、日本農業を閉そく状態に追い込んだのは、年間七十七万トンにおよぶミニマム・アクセス米の輸入を続け、米価の暴落を放置してきた、歴代の自民党内閣と農水省です。その反省もないまま、輸出をバラ色に描いても、それは農業つぶしの悪政から農民の怒りをそらす「目くらまし」だと言わざるをえません。
輸入解禁で病害虫の侵入の恐れも…第二の問題は、相手国の検疫制度を問題にして輸入解禁に応じさせるやり方です。今回の米輸出は、害虫の「カツオブシムシ類」が日本から侵入する恐れがあるという中国側を説得して解禁させたものですが、輸出戦略でも輸出を増やす方策として「検疫問題の解決」を強調しています。しかし、これは「もろ刃の剣」。日本も病害虫の侵入を防ぐ目的で、いろいろな外国産農産物の輸入を禁止しています。そのうち中国側は青果物、鶏肉など十三品目の輸入解禁を日本に要請(表)。かりにこれらが解禁されれば、日本農業が受けるダメージは、米輸出によるメリットをはるかに上回るものになるでしょう。さらに、もし輸入農産物と一緒に病害虫が侵入することになれば、それこそ取り返しのつかない事態になります。
“身内”からも懸念される輸出促進策農産物の輸出促進は、安倍内閣のいわば“身内”からも懸念されています。例えば、昨年十一月の経済財政諮問会議では、「日本の米はどこにでも売れる」と妄言を吐いた農相が、財界人から「それなら関税を撤廃しようということになってまずい」とたしなめられる一幕も。また、与党からは、米輸出に対する見返りを中国から求められることに、「中国はオーストラリアよりも怖い」と警戒する声もあがっています。それでも安倍首相は、四月に予定される日中首脳会議で中国への米輸出の問題を最終決着させ、夏の参院選での農村票の取り込みに生かしたい考え。こうした政治的パフォーマンスが、日本農業に大きな禍根を残すことをしっかり見抜く必要があります。
(新聞「農民」2007.2.19付)
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[2007年2月]
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