東京都民の台所
築地市場移転予定地は
発がん物質だらけだった
石原都知事が強引に計画推進
「都心の一等地で交通の便もよい。こんなに立地条件がいいのになぜ移転なのか。七十年間培ってきた、歴史と伝統の築地ブランドを守らなければならない」(青果物の仲卸業者)。東京都中央区の中央卸売市場(築地市場)が消滅の危機にさらされています。石原慎太郎都知事が打ち出した江東区豊洲への移転計画。これにたいし、市場関係者が「移転を許すな」と声をあげています。
“食の安全より五輪優先”
魚屋・八百屋さんら猛反対
なぜ交通不便な土地に移転か?!
築地市場は、魚河岸の名で親しまれ、一日に水産物を二千百トン、青果物を千二百トン扱い、四万人以上が商いや買い物に訪れる都民の「台所」です。その中で大きな役割を果たしているのが仲卸業者。卸売業者からセリなどで買った魚や野菜を市場内で小分けして、魚屋、八百屋や料理店などの買出人に販売します。その際の仲卸の評価が相場や末端価格を左右するのです。
青果物の仲卸は「移転のメリットが考えられない。経費がばく大になるだろうし、買い付けに来る八百屋も、交通の便の悪い豊洲までは来ないだろう。移転でつぶれる八百屋も出てくるはずだ」と、地域経済への影響を心配します。
築地市場は、一九八〇年代半ばから再整備が検討されてきましたが、現在の移転計画に方向転換したのは、九九年の石原知事誕生後です。二〇一二年までに豊洲の東京ガス跡地に移転し、市場跡地には、夏季五輪(一六年)のメディアセンターを造る計画です。
何の合意もなくゴリ押し
「最大の問題は、合意形成もなく、都が強引に推し進めようとしていることだ」と憤るのは、仲卸などの従業員で構成され、移転反対運動の先頭に立ち、農水省や都と交渉を行ってきた全労連・全国一般東京地本東京中央市場労働組合(東中労)の羽根川信委員長。水産仲卸最大の東京魚市場卸協同組合が、全組合員投票で移転反対を決議するなど、移転への合意はなく、都の一方的な姿勢が目立っています。
その都は、新市場建設の意義を「規制緩和や生産・流通技術の向上等は、外資を含む大型資本の参入…をまね」き、「専業小売店が減少し、量販店の競争が激化する一方で、新しいタイプのディスカウント型小売業等が誕生」したなどと強調。施設整備・運営については「民間活力を活用した手法の積極的導入」を唱えています。
羽根川委員長は「都民の消費生活の安定に貢献している公共市場としての性格から、大手スーパー・量販店のもうけ本位の市場への切り替えをねらったもの。中小零細業者切り捨て、民営化による市場破壊にほかならない」と批判します。
さらに移転は、食の安全を脅かす重大な問題をはらんでいます。豊洲の移転予定地には、環境基準値の千五百倍のベンゼン、四十九倍のヒ素、二十四倍の水銀、十五倍の六価クロムが検出されるなど、有毒物質による土壌汚染が深刻です。
「やめてくれ!」業者も消費者も
鮮魚の仲卸は「消費者は食べ物に敏感。少しでも汚染されているとわかれば絶対に買わない。まして地震による地割れや液状化で、汚染土壌が地表に出てきたら、市場は閉鎖に追い込まれる」と危ぐします。
〇六年六月には、移転に反対する鮮魚仲卸が中心になって「市場を考える会」が結成されました。半年の間に、鮮魚中卸八百五十軒のうち二百軒近くを結集するなど、反対の輪は広がっています。十月十一日に、ねじり鉢巻きに作業服姿で、千五百人が銀座をデモ行進。反対署名も四万人集まるなど、反対運動は盛り上がりをみせています。
「考える会」幹事長で鮮魚仲卸の斉藤隆さんは「食の安全に責任を負っているわれわれの立場から言えば、汚染地域に生鮮食品を扱う市場を移転するなんて言語道断。消費者とともに運動を広げ、食の安全を守りたい」と決意しています。
(新聞「農民」2007.2.5付)
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