ほんとうに大丈夫?
米牛肉輸入再開でBSEフォーラム
「ほんとうに大丈夫なの? アメリカ産牛肉の輸入再開」と題して、全国食健連は十一月十一日、BSEに関するフォーラムを都内で開催。三日前にもアメリカ産牛肉から違反部位の混入が摘発されたとあって、農家、消費者、労働者など、約五十人が参加しました。
フェリシア・ネスターさん(内部告発を支援した米弁護士)
アメリカは病気牛を流通から外さない
安全性検査は食肉企業にまかせっきり
金子清俊氏(食品安全委プリオン専門調査会前座長代理)
「たら」「れば」では科学的評価できず
「ほんとうに大丈夫なの? アメリカ産牛肉の輸入再開」と題して、全国食健連は十一月十一日、BSEに関するフォーラムを都内で開催。三日前にもアメリカ産牛肉から違反部位の混入が摘発されたとあって、農家、消費者、労働者など、約五十人が参加しました。
報告したのは、アメリカの弁護士で、食肉検査官の内部告発を支援し、実態を暴露しているフェリシア・ネスターさん(写真〈写真はありません〉)と、食品安全委員会プリオン専門調査会の前座長代理で、政府の輸入再開決定に疑問を投げかけ、今年三月に退任した金子清俊・東京医科大学教授。(写真〈写真はありません〉)
ネスターさんは「アメリカの現状は、残念ながら、日本のみなさんの期待とは大きくかけ離れている」と告発。金子さんは「輸入再開の問題は現在進行形の問題であり、国民の根強い不安を施策に反映する仕組みが必要だ」と強調しました。
告発した労組や検査官の弾圧も
ネスターさんは、食肉検査官の労働組合と協力して多くの検査官から証言を聞き取っています。そして、アメリカの食肉工場の実態は「会社の監督官や職長に牛耳られ、政府の検査官は手足をもぎ取られた状態」だと指摘します。
アメリカのと畜場は、日本と違ってすべて企業経営。九七年に全面的に導入されたHACCP制度によって、それまで政府が第三者としてやってきた安全性の検査は、経営する企業にゆだねられることになりました。
「検査官は何をするのかというと、会社側の書類を確認するだけ。牛の月齢を判断する権限さえない。それでも工場の違反を摘発しようとすれば会社から嫌がらせを受けるし、左遷されかねない。多くの検査官は勇気ある行動をとれない」とネスターさん。現場の告発をもとに労働組合が食肉工場のずさんな衛生管理の改善を要求したところ、アメリカ農務省は逆に、組合の支部長を全国から呼んで尋問。企業を改善させるのではなく、告発した労働組合や検査官を弾圧しようとしました。
ずさん衛生管理実態白日の下に
こうした中でネスターさんらが情報開示させた食肉検査官による違反記録(ノンコンプライアンス・レコード)によって、ずさんな衛生管理の実態が白日の下になり、「農務省が『会社はきちんとやっている』と言ってきたことが覆された」のです。
さらにネスターさんは「アメリカの食肉行政には病気の牛を食用から外すという考え方はない。病気の部位は除去するけれども、病気の牛全体は問題ないという考えだ」と指摘。そのうえで「日本人が食べている牛肉はアメリカ人が食べている牛肉よりも品質が高い。これを下げないよう、がんばってほしい」と呼びかけました。
核心部分を無視して輸入を再開
金子さんは、昨年十二月に食品安全委員会が出した答申について言及。その答申とは、アメリカ産牛肉の安全性を科学的に評価するのは困難としたうえで、諮問された二つの条件(二十カ月齢以下、特定危険部位の除去)が一〇〇%守られると仮定すれば、日本とリスクの差は小さいとしています。審議の過程を振り返った金子さんは、最初は仮定にもとづく結論しかなかった答申案に、「これでは食品安全委員会の信頼が損なわれる」と感じて、「科学的な評価は困難」という結論を盛り込んだことを明らかにしました。
しかし政府は、この答申の核心部分を完全に無視して、輸入再開を決定。これに対して、「『たら』『れば』の議論では、とても一般のみなさんの疑問には答えられないし、かえって不安を助長する。(仮定の順守は)“絵に描いたもち”に過ぎず、実効性は何も確認されていない」と厳しく批判しました。
日本の運動が米国運動の後押し
そのうえで金子さんは「リスクコミュニケーションの場でもかなり強い慎重な意見が多かったにもかかわらず、その声は反映されていない」と指摘。「五年後、十年後の日本の食品行政を考えると不安だ」と述べ、教育改革タウンミーティングでの「やらせ」問題も引き合いに出しながら、施策に国民の声を反映させる必要性を強調しました。
二人の報告を聞いた会場の参加者からは「これまでもやもやと感じてきたことが、霧のように晴れた」といった発言も。ネスターさんは「みなさんの運動が日米両政府に圧力をかけ、私たちの運動の後押しにもなっている」と感謝の意を表明。金子さんも「本音が飛び交ういいフォーラムだった。こうしたとりくみを行政が支援することも必要ではないか」と感慨深げに語りました。
(新聞「農民」2006.11.27付)
|