「農民」記事データベース20061113-756-02

食料を奪う車、穀物価格高騰

バイオ燃料ブーム

飢餓の脅威が広がる

 原油価格の高騰で、自動車用のガソリンや軽油の代役として、大豆やトウモロコシなど植物から作るバイオ燃料が注目されています。石油に比べて安価で、環境にもやさしいと言われますが…。


 エタノールとバイオディーゼルと…

 バイオ燃料は(1)トウモロコシ、サトウキビなどから作るエタノール(2)大豆油やナタネ油などから作るバイオディーゼルの二つのタイプに大きく分かれます。

 エタノールの開発に熱心なのは、ブラジルやアメリカ。ブラジルでは、すでにサトウキビ生産の半分がエタノール向けになっています。アメリカのトウモロコシ生産は、エタノールに回る量が、輸出用を上回る勢いです。エタノール開発に取り組む企業には、ADM社、カーギル社など穀物メジャーが名を連ねています。

 バイオディーゼルは、ディーゼル車の普及しているヨーロッパ諸国が力を入れています。日本でも、安倍首相が、国産バイオ燃料の生産を現在のガソリン消費量の一割にまで拡大する工程表の作成を指示するなど、導入の動きを強めています。

 自動車保有者と食料消費者との衝突

 トウモロコシ、大豆、砂糖などは、もともと食料や家畜用飼料。これが燃料に多く回ることによってどうなるのか―。

 アメリカの地球政策研究所のレスター・ブラウン所長は「スーパーマーケットとガソリンスタンドがいま穀物を奪い合っている」という論文を発表。そのなかで「石油価格高騰に対応してのアメリカのバイオ燃料生産投資はコントロールを離脱して急上昇。牛肉、豚肉、鶏肉、牛乳、卵の生産から穀物を取り上げようとしている」と指摘しています。

 そのうえで「最も深刻なのは、巨大な数の(エタノール)蒸留所が、人間の直接消費のために利用できる穀物を減らす脅威をもたらしていることだ。世界の八億人の自動車保有者と食料消費者の間の衝突の段階に立ち至っている。飽くことなき車志向を考えれば、穀物価格上昇は不可避だ」と告発しています。

 さらに「多くは収入の半分以上を食料に支払う世界の二十億人の最も貧しい人々にとって、穀物価格の上昇は、たちまち生命への脅威となりうる。食料価格高騰が飢餓を広げ、インドネシア、エジプト、ナイジェリア、メキシコなどの穀物を輸入する低所得国で政治的不安定を生み出すリスクが高まっている」と懸念を表明。バイオ燃料ブームは、食料価格の高騰を招き、穀物を輸入する低所得国に飢餓を広げると警告しています。

 温室効果ガスの排出削減にならない

1970年代初めに酷似する世界の穀物供給 全米科学アカデミーの雑誌に発表された論文によると「バイオ燃料の生産には、農業機械の生産や運転、農薬や肥料の製造、収穫物を燃料に加工するための大量の石油が必要になる。バイオ燃料の利用は、全体としてみると、必ずしも温室効果ガスの排出削減につながらないのではないか」と、温暖化抑制効果に疑問を提示しています。

 丸紅経済研究所の柴田明夫所長は十月十九日、「世界の食糧需給動向」のテーマで講演を行い(写真〈写真はありません〉)、そのなかで「二〇〇六、〇七年度末の世界の穀物在庫率は、一九七〇年代初めの低水準にまで落ち込む」と指摘。「エタノールと食料とは、競合し、矛盾する問題だ」とのべました。

 柴田氏は、最後にこう警鐘を鳴らしました。「たとえばアメリカのトウモロコシをみれば、エタノール向け需要が増えると、生産を増やさなければならない。それに見合った遺伝子組み換え作物の開発を考えているようだが、収奪的な農業を無理してやることになる。水、土、環境を考えると、リスクは高まるおそれがある」

(新聞「農民」2006.11.13付)
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2006年11月

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