日経調「農政改革」提言と
日本の農業・農民
駒沢大学名誉教授 石井 啓雄(いしい ひろお)
第3回「提言」の内容(1)
農地制度についてのご都合主義的主張
「提言」が三つの課題を掲げて政策を論じていることは、第一回で述べたとおりですが、その第一の農地法制の問題は、客観的にはもちろん、「提言」自体が主張しているように最も重要な問題なので、あとで戦後(=農地改革以後)の歴史的経緯も踏まえて詳述することとし、ここでは「提言」が示すポイントとその問題点だけを指摘するにとどめます。
耕作者主義は時代遅れ?
「提言」はまず、「土地利用型農業の構造改革は決定的に遅れて」おり、また耕作放棄が多発しているが、その理由は農地制度の「理念…が対応力を失っている」ことにあるとしています。つまり、戦後の日本農業と農政の前提である自作農主義あるいは耕作者主義が時代遅れとなっているというわけです。
そしてなにを作っても引きあわないといった、その経済的理由などをまったく無視したまま、現在の三つの基本的な法律―農地法、基盤強化法、農振法(農業振興地域の整備に関する法律の略称)―の改廃・一本化を要求しています。議事録を読むと、三法律のうちでも最も基礎的な農地法の廃止までかなり強く主張する人が複数いたことがわかります。
その上で「提言」は、「所有と利用の共存共栄」と称して、(1)宅地並みに長期の農地定期賃借権の制度化、(2)農業委員会を中心とする農地の権利移動と転用の統制制度を市民等による確認制度に改めること、(3)その制度の事前許可制を事後確認に改めること、(4)転用期待を排除するためゾーニングを強化すること、(5)農民の所有している農地への課税の強化、(6)食品・外食産業など企業の農業参入つまり農地の権利取得の自由化―などを主張しています。
財界の利益本位の主張
それ以外の問題を含めて、「提言」の要求の中にはそれひとつだけを取り出してみれば、必ずしも事情に通じていない人には一見もっともに思えるものがあるかもしれません。しかし全体としては矛盾だらけであり、また法制論としてはまったく成り立たないものがいくつもあります。「提言」は農地制度について、部分的には規制の強化とか規制方法の変更などを求めているわけですが、それはご都合主義的なものであり、全体としては財界の利益本位の規制の緩和ないし廃止を主張したものです。
(つづく)
(新聞「農民」2006.9.25付)
|