日経調「農政改革」提言と
日本の農業・農民
駒沢大学名誉教授 石井啓雄(いしい ひろお)
第2回 高木委員会の構成と検討協議のしかた
「提言」の内容に入る前に、高木委員会のメンバー構成と協議のしかたについて、簡単にみておきましょう。ここからも「提言」の本質の一端がうかがえるからです。
農民代表はゼロ
委員長の高木勇樹氏は、元農水省事務次官、現農林漁業金融公庫総裁であり、主査を務めた本間正義氏は、成蹊大学を経て最近、東京大学農学部の教授になった人です。そのほかのメンバーは全部で九人。大学教授が一人、マスコミの論説委員二人、日本生協連と全国農協中央会から各一人、農外から参入して野菜生産の株式会社を営み日本農業法人協会の役員もしている人が一人、そして主に食品の加工・流通にかかわったりしている大企業の社長などが三人です。
ほか、政府や財界が主宰するほとんどの農政検討の場に参加している生源寺眞一東大教授と、日経調瀬戸委員会の長を務めた瀬戸アサヒビール相談役など四人の財界人が顧問として参加していますが、ここできわめて不可思議なことを指摘しないわけにはいきません。
それは農民あるいは農民団体の代表は、一人も入っていないということです。農水省が「担い手」あるいはその候補だとしている「認定農業者」など、専業的で比較的規模も大きい家族農業の経営主すら、一人もメンバーになっていないのです。農協の代表は、協議には参加し、その議事抄録(以下、議事録と略記)を読む限り、非常に問題のある発言もしているのですが、最終的な「提言」への同意は拒みました。
これらの事実は、日経調の「提言」が農業の複雑かつ多面的な実態も、人間としての農民の要求もまったく意に介しない独善的なものであることを象徴的に示しているといえるでしょう。
誰の意見を聴いたか
次は、高木委員会での検討討議のありようですが、議事録によると、当然ながら、全体の仕切り役は高木委員長、中間報告と最終「提言」の原案の執筆者は本間主査です。そしてこの中間報告と「提言」の原案の討議修正に相当の時間をあてたようですが、ただ、最も多くの時間をあてたのは、農水省の現職部課長からのヒアリングとそれに関する討議だったと思われます。そのほか、大学教員や委員の意見の開陳とそれをめぐる討論に一定の回数があてられ、また高木委員長と本間主査が構成メンバーに文書による意見の提出を求め、それに多くの委員が応えています。
本間主査の取りまとめは、全体としては各委員の発言や文書による意見をそれなりによく反映していますが、しかし基本的に大問題があるほか、相互矛盾なども多いことは、後述するとおりです。
そしてここでも企業的農業経営者二人の意見を同じ日に簡単に聞いた以外に、農民や市町村、集落レベルの識者などの意見は、まったく聞いていないということを指摘しておかなければなりません。
(つづく)
(新聞「農民」2006.9.18付)
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