「農民」記事データベース20060918-748-06

06年産 米価 最安値スタート

日照不足で不作なのに…

関連/瀬戸内地方の農業青年が視察


 “やや不良”なんてもんじゃあない

 「茎数が少なく、穂の長さも短い。田植え直後から日照が少なかったためだ。二割の減収。“やや不良”なんてもんじゃなく、完全な不作だ」――。農水省が八月作況を公表した翌日の三十日、岩立孝一さん(73)は、千葉県の代表的な早稲品種「ふさおとめ」の田んぼでこうつぶやきました。

 ここは、利根川に近い成田市北部の水郷地帯。岩立さんは十二ヘクタールの水田を耕作する大規模農家です。「もう四、五日すればコシヒカリの収穫も始まるが、期待は持てない。田んぼにボリューム感がないんだよ」とつけ加えました。

 今年は春先から初夏にかけて全国的に晴れの日が少なく、梅雨前線が活発で九州や長野では記録的な豪雨が降りました。四〜七月の日照時間は、仙台七一%、新潟七五%など、日本列島の広い範囲で平年の七〜八割。八月には回復したものの、これから稲刈りが本格化する東北、北陸の米どころでも、日照不足による収量への影響が心配されます。

 農家の日当労賃は大企業の時給並み

 ところが新米の価格は「最安値」でスタート。ふさおとめの農協仮渡し価格は、一俵(60キロ)一万六百円で、昨年と比べて六百五十円落ち。八月三十日に行われた米価格センターの入札は、稲刈りの遅れから、千葉・ふさおとめと茨城・あきたこまち、福井・ハナエチゼンの三銘柄だけの上場でしたが、昨年同期比で約五%も安く、しかも八割近くが売れ残る(ふさおとめは全量不落札)という惨たんたる状況でした。

 千葉県農民連の小倉毅書記長は、義父の後藤八郎さん(72)と米の出荷準備の最中に入札結果を知りました。「米が不作なのに…」と言った後、言葉が続きません。八・五ヘクタールの水稲を栽培する小倉さんはこの時期、稲刈り、乾燥、もみすりなど一連の作業に追われ、目の回る忙しさです。「米価には市場原理さえないのか。農家の労賃はいったいどうなるんだ」と言葉を荒らげました。

 農水省が八月に発表した〇五産米生産費調査によると、一俵当たりの生産費は一万六千七百五十円です。しかし市況の米価がこれを大幅に下回るため、稲作農家の「日給」(一日当たり家族労働報酬)はわずか二千六百四十七円にしかなりません。“稲作農家の一日の労賃は、大企業労働者の時給並み”――これが政府の統計からも明らかです。

 今の米価の暴落は仕組まれたものだ

 こうした低米価が、地域農業に深刻な影響を与えています。農民連に今年加入し、準産直米にも出荷する石原繁夫さん(58)=千葉県栄町=は仲間とともに二十ヘクタールの転作田で黒大豆を作るかたわら、ライスセンターの副組合長も務める、地域の中核的な農家です。

 そのライスセンターは九六年に設立。「当時の米価は一俵二万二千円。二万円程度にはなるかもしれないと思ったが、まさかこれほどまで下がるとは…」と石原さん。「燃料代の高騰で利用料を上げたいが、今の米価ではとても無理」と吐露します。

 「今の米価の暴落は、仕組まれた暴落だ」と強調するのは、農民連ふるさとネットワークの横山昭三事務局次長。〇三〜〇五年産のまともに食べられる政府備蓄米が、国民の消費量の三十一日分しかないことを指摘し、「国産米は余っているわけではなく、仮に今年が平年作でも、来年の端境期には底をつく」と断言します。そして「国産を望む消費者に、卸、米屋を通じて安心して食べてもらえる米を届ける、準産直米のルートづくりが今こそ大事になっている」と訴えています。


瀬戸内地方の農業青年が視察

香川の植村農園

 瀬戸内海に隣接する、岡山、香川、徳島の農業青年など八人が八月十五日、香川県三木町の植村農園で、緑、紫、ホワイトのアスパラガスの出荷作業を体験した後、畑を視察し、交流しました。

 これは福岡県で開かれた青年部学習交流会に参加した青年たちが、集まろうと企画したもの。植村農園は、県内のレストランや県外の産直会社などに減農薬栽培アスパラガスを出荷しています。同農園のアスパラガス畑には、バンカープランツとしてトウガラシが植えられていたり、粘着性のある黄色い板状のトラップがいたるところに下げられています。参加した青年たちは、いろいろな減農薬栽培の工夫に強い関心を寄せていました。 夜の交流会では、もの作りの話や結婚の話などで盛り上がり、「来年も瀬戸内地域の青年で集まろう」などの意見が出されました。

(農民連青年部 森吉秀樹)

(新聞「農民」2006.9.18付)
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2006年9月

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