豆で達者な村づくり〈上〉福島・鮫川村の挑戦福島県鮫川村ではお年寄りが元気に大豆づくりに励んでいます。その決め手は、いまの農政では「担い手」になれない高齢者を農業の主役にして生かすこと、そして価格保障です。いま、村の直売所「手・まめ・館」を拠点に、食と農をまめに生かす地域づくり=「豆で達者な村づくり」に村あげて取り組んでいます。
高齢者を担い手に 元気呼ぶ大豆づくりに村独自で価格保障小さな村で自立の道めざそうと阿武隈山系の南端、茨城県に接する典型的な中山間地の鮫川村。基幹産業は農業ですが、米をはじめ葉タバコやこんにゃくなどの主要作物の生産額は十年の間に一六%も減少し、高齢化率は三〇%近くまで高まっています。こうした閉そく感漂うなかで、村に元気を取り戻すきっかけとなったのは、三年前の合併住民投票で村民の七一%が「合併はしない。小さな村で自立の道をめざそう」と決めたことでした。新村長となった大楽(だいらく)勝弘さんは、「沈んでいる村民の心に元気を取り戻し、笑顔が絶えない健康・長寿の村をつくりたい」との思いから、里山大豆特産品開発プロジェクトチームを立ち上げました。「なんで大豆なの?」との声もありましたが、「大豆は日本食の基本、高齢者にも作りやすいし、健康づくりにもつながる」からと、遊休農地などで大豆栽培し、元気なお年寄りを増やす目的で、「豆で達者な村づくり」がスタートしました。
種子を安く販売<全量を買い上げこの仕組みの柱が、価格保障です。大豆は、福島県農業試験場が開発した「ふくいぶき」。加工に適しイソフラボンが在来種より一・五倍多く含まれています。一キロ五百六十円の種を高齢者には百円で販売。農産物検査員の資格を持つ村長が、一等(二十五キロで七千五百円)から四等(同千円)まで村独自の基準を策定してくず豆まで含め全量、村で買い上げます。国からの大豆交付金は対象にならないため、一銭も入っていません。また、とうてい品目横断対策の対象にもなりません。この価格保障にかかる経費は、種代に五十万円余り、全量買い上げに五百万円ほどで、村の財政のわずか一・五%。庭先で脱穀ができるよう大豆脱粒機も二台導入しました。「財政困難な中での支出ですが、多くの高齢者に喜ばれています」とは、農林課の芳賀亨さん。
新聞やテレビにみんな明るく…初年度は百二人(五・五二ヘクタール)、二年目は百三十五人(十・二五ヘクタール)、そして今年度は百七十人(十四・二ヘクタール)と、年々大豆づくりに取り組む人も増加し、栽培面積も二・五倍に。今年度の最高齢は八十八歳、平均で七十三歳、六十歳未満はわずか十一人だそうです。また、じゅうねん(エゴマ)生産も同様な仕組みで村の商工会が全量買い上げています。こちらも年々生産者が増加して、今年度は八十八人(五・一ヘクタール)に。これは、大規模農家だけ「担い手」にする品目横断対策とは正反対に、小規模・高齢者を担い手に生きがいを見出そうという挑戦でもあります。しかも、村の老人医療費は一人平均で五十五万円なのに、大豆づくりに取り組んでいる高齢者の医療費はなんと二十二万円! 「健康で元気な村に少しずつなってきたかなあ。村のことが新聞やテレビにも取り上げられて、みんなが明るくなってきたことだけは確か」(芳賀さん)です。
「手・まめ・館」で加工品販売 好評村あげて一つの目標にとりくむそして、全量買い上げした大豆を原料に、豆腐やみそ、きな粉、油揚げなどに加工して販売しているのが、昨年十一月に旧幼稚園舎を改築してオープンした「手・まめ・館」です。味が濃厚と人気の「達者な豆腐」は一丁百五十円で、毎日完売。みそは二月に売り切れてしまいました。直売所には、大豆加工品のほかに、登録している七十五人の農家が、「手まめ」に作った野菜などの販売もしています。また、地元の食材を使った「おふくろの味」を提供する食堂を備え、一日の来客数は約百十人で売り上げは約十万円。「思ったより好評」とは、村振興公社準備室の本郷まさ子さん。「だれだれさんのカボチャがほしい」など、確かな味にリピーターも多く、遠くいわき市や近隣の町村から買い物に来る人もあって、予想を上回る売れ行きです。農家も、「消費者に喜ばれると、また作ろうっていう気になります。喜ばれる野菜をいかに作るか、ここで教わりました」と話しています。本郷さんは、ほかの直売所がスーパー化してはいないかと指摘します。「ここは、町村合併はしないところから始まって、村あげて一つの目標に取り組んでいるところがいい」 「手・まめ・館」を生産者と消費者の交流や情報交換などの拠点にし、小規模で手作業の農薬に頼らない農業で、鮫川村そのものを「地域ブランド」にしたい――小さな自立の村に夢は膨らみます。 (つづく)
(新聞「農民」2006.9.18付)
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[2006年9月]
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