日経調「農政改革」提言と
日本の農業・農民
駒沢大学名誉教授 石井 啓雄(いしい ひろお)
第1回 高木委員会「提言」の基本的性格
財界の政策提言団体である日本経済調査協議会(以下、日経調と略記)が、「農政改革高木委員会最終報告(提言)」の名で、「農政改革を実現する〜世界を舞台にした攻めの農業・農政の展開をめざして」(以下、「提言」と略記)を発表してから三カ月がたちました。
この連載では、最近の政府の農政をも視野に入れつつ、農地制度問題を中心に、この「提言」の内容を批判的に検討し、それを通じて家族経営による日本農業の民主的再建の道についても考えてみたいと思います。
日経調は、この「提言」に先立って、二〇〇四年五月には瀬戸委員会「農政の抜本改革:基本指針と具体像」なる提言を行い、そのフォローアップを行う組織として、同年九月に高木委員会を発足させたとしています。以来約二年間、十六回の委員会での検討を経て、この最終的な提言をまとめたというわけです。二〇〇五年三月の政府の「新たな食料・農業・農村基本計画」の発表直後には、中間報告「農政改革を実現する」を提言することもしました。
財界の意向反映
最近の日経調の農政提言は、内閣直属の経済財政諮問会議や規制改革・民間開放推進会議での財界代表や政府お気に入りの大学教授などの発言と表裏をなすかたちで、その時々の政府の農業政策に大きく反映されてきたばかりでなく、さらにその先まで指図する傾向をもっていました。農業生産法人要件の緩和(定款による株式の譲渡制限、役員の四分の一以上の農作業常時従事義務など)による株式会社農業生産法人の容認、特区制度による一般株式会社の農業進出の容認(市町村などとの協定が必要であり、また耕作放棄が多い地域での賃借権に限るが、役員の一人だけが農業―農作業ではない―に従事すればよい)、農業経営基盤強化促進法(以下、基盤強化法と略記)の改定によるその全国化などにも、すべてそのような経過がありました。
三つの課題掲げ
今回の「提言」も、まったく同じような役割を果たすだろうことは、ほぼ明らかです。「経営所得安定対策等大綱」(二〇〇五年十月、選別が大問題になっているいわゆる品目横断的直接支払いなど。直接支払いに関する法律は、「農業の担い手に関する経営安定のための交付金の交付に関する法律」―以下、担い手経営安定新法と略記―として今年の国会で成立)と、「二十一世紀新農政二〇〇六」(今年四月)の策定・公表を、「提言」は「農政の骨格たる政策体系が出揃った」と高く評価しているのです。そして、「瀬戸委員会提言および本委員会中間提言の方向性に照らし…緊急に検討しパッケージで改革を行うべき課題について、次のとおり提言する」としているからです。
「提言」の掲げる課題は、次の三つ―(1)新たな農地関連法制の準備が急務、(2)真の構造改革こそが真の担い手政策、(3)グローバル化への対応を通じ、攻めの農業・農政を展開―です。
(つづく)
(新聞「農民」2006.9.11付)
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