WTOは漂流状態から形骸化へみずほ総研が分析
“WTOは今後、貿易政策を議論するだけの単なる話し合いの場になり、形骸化(けいがいか)する可能性がある”――三菱UFJグループに次いで銀行業界第二位のみずほフィナンシャル・グループの調査・分析機関である「みずほ総合研究所」はこのほど、こういう分析リポートを公表しました。 リポートの題名は「凍結されたWTOドーハ・ラウンド交渉――交渉再開に向けた見通し」。分析したのは同研究所政策調査部の菅原淳一主任研究員。同氏はこれまでも客観的な情報にもとづいてWTO交渉の動向を分析してきました。
交渉も行えず単なる話し合いの場にリポートは「いまやドーハ・ラウンド交渉は、いつ終結できるのかどころか、いつ再開できるのかの目途(めど)すらつかない漂流状態に陥った。これは単に一つの貿易自由化交渉が頓挫(とんざ)した……にとどまらず、WTOの下でのグローバルな自由貿易体制への信頼が危機的なまでに揺らいでいることを示している」と分析。そのうえで、今後の見通しとして(1)年内に交渉が再開されるという「最も楽観的なシナリオ」から、(2)アメリカの新政権が発足する二〇〇九年に交渉が再開するという「悲観的なシナリオ」、(3)交渉が再開されないという「最悪のシナリオ」を示しています。 注目していいのは「最悪のシナリオ」。その要旨は次の通りです。 *途上国の開発支援や貿易円滑化などドーハ・ラウンド交渉の一部についてのみ合意がなされ、交渉が事実上終結。各国はFTAに走る。 *この場合、もはやWTOのもとでの自由化交渉は行われず、WTOは貿易紛争処理機関になる。 *しかし、ルール作りのための交渉を行えないWTOは、紛争処理機関としても限定的な機能しか果たせないようになり、やがて「紛争処理機関としてのWTOの存在意義も失われ、WTOは貿易政策を議論するだけの単なる話し合いの場になり……形骸化」する。 リポートは、(2)の悲観的シナリオを「最も有力」としながらも、「最悪のシナリオ」を「完全に否定するのは難しい」と評価しています。 そして、農業分野などの「死活的利益」を譲歩してまで「WTO体制は守るべき価値があるものなのか、各国は今、その判断を迫られている」と結んでいます。 もちろん筆者の立場はWTO交渉促進論です。しかし客観的に分析すれば、こういう結論になるということを示したものとして、注目していいリポートです。 同リポートの入手先は次の通りです。 http://www.mizuho-ri.co.jp/research/economics/insight.html#policy-insight
(新聞「農民」2006.9.4付)
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[2006年9月]
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