日照不足と農業
内嶋善兵衛
今年は記録的な日照不足。作物への影響が懸念されます。連載「異常気象と食料生産」の著者の内嶋善兵衛さんに寄稿してもらいました。
窒素肥料の抑制、病害虫の防除、排水励行…
主な対応は影響軽減策
農業にとって太陽光がないと
私たちは食物内のエネルギーを食べて生きています。この食物を作りだすのが農業です。農業は作物と家畜の力を利用して、畑に到達する太陽エネルギーを人間の生存エネルギーに変換して収穫する産業なのです。それゆえ、いかに立派な品種や技術があっても、太陽光が入射しないと農業は始まりません。
太陽エネルギーの世界分布図を開くと、日本列島を含む東アジア一帯は、北半球の同じ緯度帯の地域に比べて太陽エネルギーが少ないことに気付きます。年間量でみると、日本列島は一平方センチメートル当たり約百二十五キロカロリーですが、他の地域はこれより二〇%ほど多いようです。私たちの先祖は、この少ない太陽エネルギーをいかに効率よく作物で吸収し、食物内に蓄え収穫するかに努力して、現在のような優れた日本農業を作りあげたのです。
モンスーン気候の発達が原因
東アジア気候の特徴は、夏と冬で主な風向が交代するモンスーンの発達です。夏には太平洋上から暖湿空気が強い日射で暖まった大陸上へと流れます。冬には逆に、寒冷なシベリア奥地から暖かい太平洋上へと冷寒空気が流れます。二つの大きな空気の流れが交代する時期には、日本列島上に梅雨前線、そして秋雨前線が発達します。この前線の近くや前線上に形成される低気圧付近では、雲が形成され太陽光を強く遮ります。このようなモンスーン気候の発達が、日本列島の太陽エネルギー資源を貧弱にしている原因です。
強い梅雨が長続きする年には…
静岡を例にして、可照時間に対する太陽の照った時間の割合(日照率)が図に示されています。日照率は梅雨期と秋雨期で大きくくぼんでいます。これは、これら二つの雨期に曇天・雨天がよく続き、太陽光が雲によって頻繁にしかも強く遮られたためです。とくに梅雨期には、日照率が〇・四以上から〇・二五へと急減。図は三十年間の平均値ですが、強い梅雨が長く続く年には、〇・二以下の日照率期間が長く続き、作物は太陽光不足にあえぎ、収穫量
は低下し、品質も劣化します。
人工光源の使用は耕地では不可能です。それゆえ、日射不足への対応は影響軽減策が主になります。日射不足・過湿条件では、作物は徒長(とちょう)気味になるので、窒素肥料の抑制、病害虫の防除、雨避け栽培、排水励行、収穫物の予冷保護などが大切です。晴れ間を見つけての作業の大切さは言うまでもありません。
(お茶の水女子大学名誉教授)
(新聞「農民」2006.7.31付)
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