異常気象と食糧生産
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―農業のはなし―
お茶の水女子大学名誉教授 内嶋 善兵衛
炭酸ガス濃度高めると…
炭酸ガス施肥と光合成活動促進
ハウス内でのメロン類の栽培では、日射の少ない冬季に、光合成を加速して果
実品質を高めるため、ハウス内への炭酸ガス施用がよく行われます。一般の空気中の炭酸ガス濃度は〇・〇三六%(三六〇ppm)ですが、密閉した野菜ハウス内のそれは〇・〇一%(一〇〇ppm)以下まで低下し、光合成活動が抑制されます。そして収量
も品質も悪くなります。密閉ハウス内に炭酸ガスを放出して濃度を一般空気中の値の三〜十倍に高めると、収量
が増すばかりでなく糖濃度も高くなります。それゆえ、炭酸ガス施肥はハウス農業では有効な技術の一つです。
過去五十年間に大気中の炭酸ガス濃度は約六〇ppm上昇しました。さらに今後五十年間に約一五〇ppm上昇すると予想されています。それゆえ、私たちは、非意図的に農地、林地の植物たちに炭酸ガス施肥を行って、それらの光合成活動を高めバイオマス生産を促進しているのです。自然の樹木では近年になるほど年輪幅が広がっていることが報告されています。また、世界のコムギ収量の上昇には炭酸ガス濃度上昇の効果が相当に含まれているといわれています。
炭酸ガス濃度への作物の反応
地球上には三十〜五十万種の植物が生存しているといわれています。太陽エネルギーを吸収、固定する光合成の観点からみると植物は表のように三つに区分されます。C3植物が基本でC4、CAM植物は地球環境の変化のなかで進化してきたと考えられています。一般
にC4植物は高温、乾燥気候下でよく茂りC3植物は中温で多湿な気候に適しているようです。
C3植物とC4植物の光合成速度の空気中の炭酸ガス濃度による変化が図に示されています。C4植物の光合成は、現在の濃度近くまでは急増しますが、それ以上の濃度では一定レベルを保持しています。それゆえ、現在以上に炭酸ガス濃度が上昇しても、それを有効に利用できません。一方、C3植物の光合成は炭酸ガス濃度の上昇につれて増加し、〇・〇七%以上の濃度ではC4植物の光合成を上回っています。光合成の増加はバイオマスと収量
の増加につながります。
空気中の炭酸ガス濃度を〇・〇三%と〇・〇六%に保って多くのC3植物を育てた結果、多くの植物で二倍濃度区では平均してバイオマス量が三三〜四七%、収量が二〇〜三八%増加しました。
このような増収は高炭酸ガス大気の肥料効果と呼ばれています。増収効果を発揮させるには、作物の成長環境を整えてやる必要があります。肥料(とくに窒素、リン)と水をよく補給し、病虫害、雑草をよく退治してやらねばなりません。先進国農業ではやさしい課題ですが、発展途上国の粗放な農業ではむずかしい仕事です。
(つづく)
(新聞「農民」2006.6.12付)
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