「農民」記事データベース20060612-735-06

ビア・カンペシーナ東南・東アジア地域会議

国際フォーラムでの各国代表の発言〈1〉

関連/国際フォーラム参加者の感想


WTOのもと、農業は犠牲に

韓国女性農民連合(KPA)委員長 ユン・グンスンさん

 一九九五年のWTO発足以来、アジアの農民は大きな困難に直面しています。韓国の農家数は半分に減り、農家の負債は二・五倍に増えました。農民は美しい農村から都会に出なければならず、農村のコミュニティーの崩壊が起きています。

 韓国の食料自給率は二七%ですが、米を除くと四%です。これは、WTOのもとで農業構造改革を進める韓国政府の政策によるもので、日本でも同じ状況が起きていることを知っています。

 インドネシアやマレーシア、フィリピンでは、農業補助金が次々廃止され、農産物の輸入が増えています。農村を離れる農民が増えたことで、主に女性が担ってきた手工芸品も消滅しつつあり、生産から加工、流通までアグリビジネスが牛耳る状況が生まれています。

 インドネシアの米価は韓国の二割ですが、そのインドネシア農民がタイから輸入される安い米に苦しめられ、タイ農民はベトナムのさらに安い米に苦しんでいます。WTOのもとで私たち農民が犠牲になり、アグリビジネスがもうけています。

 アグリビジネスが遺伝子組み換え作物を押し付け、たくさんの農薬を使わせることで、作物にも、私たち農民にも、そして私たちの美しい農村にも悪影響を及ぼしています。これでは安全な食料を供給できず、消費者も犠牲になっています。

 こういう状況のなかで農業と安全な食料を守る道が食糧主権です。私たち農民は、土地や水、種子を手に入れ、私たちのやり方で食料を消費者に供給する権利があります。私たちはこの権利を取り戻したいのです。

 韓国では、米は命であり、文化であり、尊厳です。しかし政府はこの十年間、米市場の開放政策を続けてきました。韓国では昨年、これに抗議して二人の農民が自殺し、大規模な抗議行動がおこなわれました。WTO香港閣僚会議には千三百人の農民がビア・カンペシーナの行動に加わり、閣僚会議は実質的な結論を何も出せませんでした。

 韓国の農民は今、(1)米輸入(2)米軍基地の拡大(3)韓米FTA―に対する抗議行動を強めています。日本の憲法改悪の動きと韓国の米軍基地の拡大は密接に関係しており、私たちはさらに連帯を深めて、たたかいと希望をグローバルに広げていきましょう。


対米FTA交渉で大打撃

タイ貧困者連合(AOP) サワット・アパハさん

 WTOに加盟したタイ政府は、次々にFTAの締結を進め、これまでおこなってきた小規模農家を守るための政策や法律を改悪しています。これによって農民は、アグリビジネスと競争しなければならない状況に追い込まれ、農地を手離し、農作物を栽培することができなくなっています。

 最近、タイ政府は、農民に輸出用の米を作ることを強制する法律をつくり、これをやめた農民は逮捕されることになりました。一方、タイ・中国FTAによって、ニンニクやタマネギ、リンゴ、ブロッコリー、イチゴなどが安い価格で輸入されるようになり、タマネギ農家の半数が生産を続けられなくなり、何十万の農家が仕事を失いました。また、アグリビジネスは政府と組んで、外国企業が土地を九十九年間借りることができるよう法律を変えました。

 タイ政府は今、アメリカとFTAを結ぼうとしていますが、これによって特許のついたアメリカの遺伝子組み換え作物が合法的に入ってきます。これを許せば、タイの農業は一変するでしょう。そして、私たちの生活も特許でしばられることになります。特許化は、医療の値上がりをもたらし、タイの貧しい人々やHIV患者に深刻な影響を及ぼします。一度与えられた特許は二十〜二十五年も続き、政府が改善しようとしても手が届きません。特許化は、タイ社会を直撃するのです。

 WTO・FTAによって恩恵を受けるのは、決して小規模農民ではなく、資本主義大国と大企業であり、これと結託しているタイの一部の企業家です。

 タイ北部で農民に米とキュウリを作らせている日本企業は、タイ農民を低賃金で働かせ、安い米やキュウリを輸出して日本の農家に打撃を与えています。これは、アグリビジネスがどのように農民を食いものにしているか示しています。

 アグリビジネスは、食料以外の産業、例えば自動車産業の多国籍企業などとも協力して、アジアの農民の犠牲の上に利益を得ようとしています。また、いくつものアグリビジネスが手を結び、世界中を闊歩(かっぽ)しています。

 ですから、私たちも、世界的な農民の連帯を強めなければなりません。また、農民だけでなく、消費者や労働者など、他の分野の人々とも連帯していくことが大切です。


国際フォーラム参加者の感想

農民組合愛媛県連合会 森井俊弘さん

 ビア・カンペシーナの仲間が、われわれが想像できないほど厳しい条件のなかで果敢にたたかっていることに感激しました。共通の敵、当面の敵が明らかになりました。

新潟県農民連 竹内喜代嗣さん

 アジアの仲間の農地改革を求める命がけの運動を聞いて、日本の農民運動の原点を思い起こしました。食糧主権を求める運動にこそ未来があり、いま勇気と元気を出して「世界の新しい流れ」を人びとに伝えていかなければと思いました。

新日本婦人の会 藤田真理子さん

 WTOが世界の農業に悪い影響を及ぼしていることがよくわかりました。農民が必死に働いて作った農産物が輸出用にされ、自分たちは貧困にあえぎ、食糧を輸入しなければならないとは何とおかしな話でしょう。食糧主権の重要さがわかりました。

北海道農民連 宮内知英さん

 アジアの農民が、自国の農業と文化を守るために食糧主権の確立をめざして連帯していることを肌で感じることができました。伝統や文化を破壊する多国籍企業の攻撃に対抗するには、連帯をさらに深めることが必要だと思います。

全労連・全国一般東京 寺下章夫さん

 アジアの農民が「土地なし」農民で、これが大きな足かせになっていることを痛切に感じました。この上に多国籍企業の攻撃が、WTO体制をテコになされていることも、怒りをもって知ることができました。「土地を農民に」とたたかっているアジアの農民に連帯するうえでも、「小泉改革」の息の根をとめることが最重要課題です。

(新聞「農民」2006.6.12付)
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2006年6月

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