異常気象と食糧生産
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―農業のはなし―
お茶の水女子大学名誉教授 内嶋 善兵衛
環境の乱れは3ルートから
身近に迫ってきた温暖化
温暖化の最初のシグナル―暖冬を経験してからすでに半世紀がたちました。冬の寒さが和らぎ、霜日・薄氷・氷柱を見ることが、めっきりと少なくなりました。ここ五十年間で年平均気温は一度近く上昇したようです。それにつれ、農業の様子も変化してきたことは、みなさんが実感されている通りです。
前回説明したように、様々な手段を講じても地球平均気温は、今世紀半ばには一・五度、今世紀末には二〜四度も現在より上昇するようです。日本に換算すると、西・東日本で二〜三度、北日本で三〜四度も、今世紀末には温暖化する勘定になります。多くの技術が進歩しても農林業の主要舞台は自然の中の農地と林地です。ですから農林業のすべてが温暖化の影響を強く受けるはずです。
光・土壌水分の効率低下で減収
温暖化は多くのルートを通じて農林業へ影響します。それを流れ図にまとめたのが図です。増加する人口と向上する所得のため、世界の食料需要はまだまだ強まる一方です。このため、食料増産は至上命令で、多くの食料基地では森林、原野が農牧地に化けています。また、豊かで便利な生活は地球人すべての願いです。これをかなえるために、地球と地球生態系の産んだ資源を湯水のように消費して、有用な物品とサービスを生産しています。
このような活動は必ずばく大な量の炭酸ガスやメタンなどを発生させます。これは大気温室効果を強め、地球上の気象、気候状態のすべてを乱します。これらは図にあるように、温度環境、水・風環境、海洋環境の三つのルートを通じて、農林業のひのき舞台―農・林地の環境変化をもたらすのです。有用植物群は農・林地の中で太陽光、土壌水分を利用しながら成長し収穫物を形成しますが、周辺の気象環境が乱れると、太陽光、土壌水分の利用効率が低下して減収になります。
(つづく)
(新聞「農民」2006.6.5付)
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